繁忙期・閑散期をフラットにする「季節調整」
毎月定額の家賃を支払っていると、不動産業界には繁忙期・閑散期はないんだろうなと勘違いしてしまいますが、不動産業界にももちろんあります。
引っ越しシーズン、なんてものがありますからね。
繁忙期は書き入れ時なので、売上が高くなります。その逆に、閑散期は売上が低くなります。これは当然といえば、当然のことですよね。
では、何かしらのキャンペーンを1カ月行ったとしましょう。ここでは例として、期間限定のコマーシャルを放送したとします。
その場合、どのように効果測定をしたらいいでしょうか? 繁忙期・閑散期という売り上げの波があるので、正確な結果をつかむことは難しそうでもあります。
この記事では、繁忙期と閑散期をフラットにして売り上げデータを読み取る、季節調整のお話について触れてまいります。
かなり長い記事になることが想定されますので、お時間のあるときにご一読ください。
季節調整が必要なとき
それぞれの月は、繁忙期と閑散期の要素、つまり季節性が含まれています。
毎月固定の利益を上げている会社であれば、前後比較というものは容易にできそうですが、ほとんどのビジネスでは季節性が含まれています。
そのため、繁忙期前のコマーシャルであれば売上は当然出るので、効果があったと容易に見ることができてしまいますし、その逆も同じです。
では、昨対比で見たらどうでしょうか?
これは不可能ではないのですが、1年も時間が流れていれば、消費者のニーズや行動は移り変わるため、昨対比が正確な効果の評価といえるかどうかは微妙です。
つまり、売上データでは季節要因が含まれているため、短期的なコマーシャルの正確な効果測定というものは、そもそも難しいのです。
ここで繁忙期と閑散期の、季節要因を取り除く操作が季節調整というデータ処理となります。これは本当に役立つデータ処理テクニックなので、ぜひマーケターを職業とされている方であれば、絶対に覚えておいてほしい内容です。
前置きが長くなりましたが、この記事では季節調整について学習していきましょう。
この記事で学習できること
- 季節調整
平等の基準は、移動平均値
季節を調整する。
つまり、オンシーズンとオフシーズンをフラットにします。わかりやすく例えるなら、ゴルフやボーリングのハンディキャップと同じイメージです。
一般人とプロが同じゲームをする場合、より楽しくゲームを進行するためにハンデを設けます。季節調整も同様、繁忙期にはマイナス補正を行い、閑散期にはプラス補正を行います。
その基準は何を使うかというと、移動平均値が登場するわけです。
実測値 ÷ ●カ月分の移動平均値
●カ月分というのは、長期的な売上データがあれば12か月移動平均値を使うことができますし、過去1年分のデータしかなければ3か月移動平均を使うことができます。
この移動平均値を分母にすることで計算をすると、繁忙期は「1」より大きな値が算出され、閑散期は「1」より小さな値が算出されます。
例えば、移動平均値を「10,000」としましょう。繁忙期の売り上げが「11,000」で、閑散期の売り上げが「8000」だったとします。
- 11,000 ÷ 10,000 = 1.1
- 8,000 ÷ 10,000 = 0.8
繁忙期には「1.1」ポイントが付与され、閑散期には「0.8」ポイントが付与されます。これが季節指数です。
この季節指数を分母にして、実測値と割り算をすると季節要因を反映した季節調整値が算出されます。
- 11,000 ÷ 1.1 = 10,000(季節調整値)
- 8,000 ÷ 0.8 = 10,000(季節調整値)
季節指数があることで、どちらの値も平等な「10,000」に変換できました。
繁忙期・閑散期という季節性を、季節指数を使って排除すると、閑散期で「8,000」の売上を出すことは、繁忙期の「11,000」の売上を出すことと等しいと評価できます。
では、季節調整の取り方を学習していきましょう!
説明のために、このような簡素な計算式を用いましたが、季節指数を出力するまでのステップは実はかなり長いです。
こちらにサンプルデータを添付しておきますので、ぜひこの記事を読みながら操作をしてみてください。
季節調整値の算出方法
まず、基本を知っていただくために、数年分のデータがあるもので学習をしましょう。期間が短ければ、移動平均の区間を狭めて出力してください。
① 移動平均値を求める
季節調整値を出力するためには、最初に移動平均値を算出します。Udemyの動画講座用に使用した自動車レンタル業の売上データを使ってみましょう。
12か月区間で移動平均を作成していきます。12か月平均、これが繁忙期と閑散期を平等に見るための値となります。
② 移動平均値を分母にして、実測値で割る
実際の売上(キャプチャだと2009年12月)が「17,257」という値です。
12か月区間の移動平均が「18,795」であるので、移動平均値よりも売上は下、つまり閑散期ということがわかります。
ここで、17,257 ÷ 18,795 ≒ 0.92 という値が算出されます。これがハンデのポイントだと考えてください。
この値が「季節指数」です。前述の説明ではここでおしまいでしたが、この季節指数をさらに精査していきます。
③ 季節指数テーブルを作成する
季節指数を小数点第2位までに表示したものを、以下のように組み替えます。
すると、知りたい対象となる各月の季節指数を、時系列で表示することができました。
④ 季節調整値を導いていく
先ほどの表を少し加工したのが次のキャプチャ画像です。表が大きくなるため、キャプチャ画像が見づらくなってしまうことをご容赦ください。
このキャプチャの操作は、次のとおりです。
- 各月の季節指数の平均値を求める
- ①の合計値を求めると「12.09」となった
- 12.00 ÷ 12.09 を行って「0.99」を算出
- 各月の季節指数①に対して、③を掛け算する
- すると、12カ月分の季節指数の合計値は12.00になる
①と②は問題ないでしょう。問題は③です。
どうして「12.00÷12.09」を行うのか? これは、もし12カ月分の季節指数が完全にフラットな状態としたら、各月の季節指数はすべて「1」となるので、季節指数の合計が「12」ジャストでなければなりません。
そのため「0.99」という値を導き、1月から12月まで算出した季節指数をすべて「0.99」倍させ、「12.00」に収束させるという操作をしております。
すべての売り上げが「20,000」であれば、移動平均も「20,000」、各月の季節指数も「1」になりますよね。だから、季節指数を「12」に揃えたわけです。
ここが、データの調理テクニックとなります。これで本当の季節指数を導けました。
⑤ 最後に季節調整値を算出
移動平均は12か月目で求まるため、13カ月目の1月から見ていきましょう。
2010年の12か月を評価すると、8月は繁忙期にも関わらず、季節調整値でさえ一番高い数字を出しています。つまり、繁忙期でより稼いだ月だったと評価できるでしょう。
逆にハンデが大きい2月の季節調整値は「18,814」と、ハンデが大きいにも関わらず売上が出ていないことがわかります。もう少し頑張れたんじゃないの? と評価できるわけです。
このようにして季節調整値を出すことにより、繁忙期と閑散期をフラットにした値でその月の売上評価をすることができます。
これはすごいデータ調理ではないでしょうか?
まとめ
コマーシャルを出す前と出した後を比較する場合、広告の効果があって売り上げが伸びているようであれば、必ず季節指数でハンデを背負っていたとしても、2010年8月のデータのように季節調整値は上昇するはずです。
Web広告などはそれほど急な効果は出ないのですが、コマーシャルに関してはそれくらいインパクトがないといけませんからね。
このように、季節調整とは何かの施術をした際の前後関係を知るうえで、非常に重要な統計学だということが言えるわけです。長くなりましたが、季節調整の話は以上となります。ここまでのご一読ありがとうございました。
次は、相乗平均について学習をしていきましょう。おつかれさまでした。