条件付き確率と乗法定理 — 独立と排反の違い
前回の事象と確率で、積事象 $A\cap B$ を学びました。本ページの主役は、「ある情報が分かったあとの確率」を表す条件付き確率 $P(A\mid B)$ です。これを定義式から出発して、乗法定理 $P(A\cap B)=P(B)\,P(A\mid B)$ と、事象の独立 $P(A\cap B)=P(A)P(B)$ までひと続きに導きます。
さらに、2級で混同が多い「独立」と「排反」の違いを表で並べてはっきりさせます。最後は非復元抽出(戻さずに引く)の数値例で、「掛け算できるのはなぜか」を確かめましょう。ここを固めると、次のベイズの定理がすっと頭に入ります。
条件付き確率は「世界が縮む」とイメージするのがコツ! 「Bが起きた」とわかった瞬間、考える舞台が $\Omega$ から $B$ の中だけにギュッと縮むの。そのイメージさえつかめば、式はあとからついてくるよ!
1. 条件付き確率 — 世界が縮む
まずは式抜きで、身近な例から入ります。あるクラス30人で、男子18人・女子12人、そのうち「数学が好き」は男子12人・女子6人だったとします。
- 質問A:無作為に1人選ぶと「数学が好き」である確率は? → 好きは合計18人なので $18/30=3/5$
- 質問B:選んだら男子だった。その人が「数学が好き」である確率は? → 男子18人のうち好きは12人なので $12/18=2/3$
同じ「数学が好き」なのに、$3/5$ と $2/3$ で答えが違います。理由はシンプル。質問Bでは「男子である」という情報が先に与えられ、考える世界がクラス全体(30人)から男子だけ(18人)に縮んだから。分母が変わったので、確率も変わったのです。
記号と定義
事象 $B$ が起こったという条件のもとで事象 $A$ が起こる確率を、$P(A\mid B)$ と書き、「$B$ が与えられたときの $A$ の条件付き確率」と読みます。縦棒の右側が条件、左側が知りたい事象です。
$$P(A\mid B) = \frac{P(A\cap B)}{P(B)} \qquad (P(B)>0)$$ 「縮んだ世界 $B$ の中で、$A\cap B$ がどれだけの割合か」を計算しています。
クラスの例に当てはめると、$B=$「男子」、$A=$「数学好き」として $P(B)=\dfrac{18}{30}$、$P(A\cap B)=\dfrac{12}{30}$ なので $$P(A\mid B)=\frac{12/30}{18/30}=\frac{12}{18}=\frac{2}{3}.$$ 直感で出した答えと一致しました。式は直感を正確に表現する道具なんですね。
P(A|B) = (A∩Bの広さ) ÷ (Bの広さ)。条件Bを新しい全体とみなす
2. 乗法定理 $P(A\cap B)=P(B)\,P(A\mid B)$(導出)
条件付き確率の定義式を整理すると、積事象 $P(A\cap B)$ の計算式が手に入ります。これが乗法定理です。
定義式 $P(A\mid B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)}$ の両辺に $P(B)$ を掛けるだけです。 $$ \begin{aligned} P(A\mid B) &= \frac{P(A\cap B)}{P(B)} &&\text{(条件付き確率の定義)}\\[2pt] P(B)\,P(A\mid B) &= P(A\cap B) &&\text{(両辺に } P(B) \text{ を掛ける)}\\[2pt] \therefore\quad P(A\cap B) &= P(B)\,P(A\mid B) \end{aligned} $$
「$A$ かつ $B$ の確率は、まず $B$ が起こり、その条件のもとで $A$ が起こる確率を掛けたもの」と読めます。$A$ と $B$ の役割は入れ替えてもよく、$P(A\cap B)=P(A)\,P(B\mid A)$ も同じく成り立ちます(定義の $A,B$ を入れ替えるだけ)。どちらを「先」と見るかで2通りの書き方がある、と覚えておくとベイズの定理で役立ちます。
$$P(A\cap B) = P(B)\,P(A\mid B) = P(A)\,P(B\mid A)$$
3. 事象の独立 $P(A\cap B)=P(A)P(B)$
ここで特別な場合を考えます。「$B$ が起きたと分かっても、$A$ の確率がまったく変わらない」──そんな関係を独立といいます。条件があってもなくても確率が同じ、つまり $$P(A\mid B) = P(A)$$ が成り立つ状態です。これを乗法定理に代入してみましょう。
$$ \begin{aligned} P(A\cap B) &= P(B)\,P(A\mid B) &&\text{(乗法定理)}\\[2pt] &= P(B)\,P(A) &&\text{(独立なので } P(A\mid B)=P(A))\\[2pt] &= P(A)\,P(B) \end{aligned} $$ 逆に $P(A\cap B)=P(A)P(B)$ が成り立てば、定義から $P(A\mid B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)}=\dfrac{P(A)P(B)}{P(B)}=P(A)$ となり、独立に戻ります。
事象 $A,\,B$ が独立 $\;\iff\; P(A\cap B)=P(A)P(B) \;\iff\; P(A\mid B)=P(A)$
「情報があっても確率が変わらない」=「掛け算で積事象が出る」は、まったく同じことを言っています。
独立なときだけ $P(A\cap B)$ を単純な掛け算 $P(A)P(B)$ で計算できます。独立でなければ、必ず条件付き確率を挟んだ $P(B)P(A\mid B)$ を使う──ここが2級の頻出ポイントです。
ここ超重要! 「独立」と「排反」はまったく別物だよ。名前は似てるけど、むしろ正反対に近いの。次の節で表にして並べるから、ごちゃ混ぜにしないようにね!
4. 独立と排反の違い(対比)
2級で取り違えが多いのが、独立と排反です。言葉が似ているだけで、意味はまったく違います。表で並べてみましょう。
| 観点 | 独立 | 排反(互いに素) |
|---|---|---|
| 意味 | 一方の情報が他方の確率に影響しない | 同時には起こらない |
| 積事象の式 | $P(A\cap B)=P(A)P(B)$ | $P(A\cap B)=0$ |
| 条件付き確率 | $P(A\mid B)=P(A)$ | $P(A\mid B)=0$ |
| ベン図 | 重なる(重なりの面積が $P(A)P(B)$) | 重ならない |
| イメージ | 互いに無関係 | 互いに打ち消し合う(強い負の関係) |
| 例 | コイン投げとサイコロ | 同じサイコロで「偶数」と「奇数」 |
決定的な違いは、$P(A),\,P(B)$ がともに正のとき、独立と排反は両立しないことです。排反なら $P(A\cap B)=0$ ですが、独立なら $P(A\cap B)=P(A)P(B)>0$。両方を同時に満たすのは確率がゼロの事象だけです。むしろ排反は「片方が起きたらもう片方は絶対に起きない」という、独立とは正反対の強い関係だと捉えると間違えません。
排反は足し算のとき(加法定理が $P(A)+P(B)$ に簡単化)、独立は掛け算のとき($P(A\cap B)=P(A)P(B)$)に効く性質。「足すなら排反、掛けるなら独立」とセットで覚えましょう。
5. 非復元抽出の数値例
乗法定理がもっとも活きるのが、非復元抽出(戻さずに引く)です。1回目の結果で中身が変わるため、2回目は1回目に依存する──つまり独立ではありません。だからこそ、条件付き確率を挟んだ乗法定理が必要になります。
袋に赤玉4個、白玉6個(合計10個)。戻さずに2回引くとき、両方とも赤である確率は?
$A=$「1回目が赤」、$B=$「2回目が赤」とします。1回目は10個中4個なので $P(A)=\dfrac{4}{10}$。1回目で赤を1個引いた後、袋は赤3個・白6個(合計9個)に縮むので、条件付き確率は $P(B\mid A)=\dfrac{3}{9}$。乗法定理より $$P(A\cap B) = P(A)\,P(B\mid A) = \frac{4}{10}\times\frac{3}{9} = \frac{12}{90} = \frac{2}{15} \approx 0.133$$
もし復元抽出(毎回戻す)なら2回とも独立で $P(A\cap B)=\dfrac{4}{10}\times\dfrac{4}{10}=\dfrac{4}{25}=0.16$。戻さない場合のほうが少し低いのは、1回目で赤が1個減るからです。
52枚から戻さずに2枚引くとき、両方ともエース(4枚)である確率は?
1枚目がエースの確率は $\dfrac{4}{52}$。1枚抜けてエース3枚・残り51枚になるので、2枚目がエースの条件付き確率は $\dfrac{3}{51}$。よって $$P(\text{両方エース}) = \frac{4}{52}\times\frac{3}{51} = \frac{12}{2652} = \frac{1}{221} \approx 0.0045$$
サイコロを1回振る。$A=$「偶数」$=\{2,4,6\}$、$B=$「3以下」$=\{1,2,3\}$ は独立か?
$P(A)=\dfrac{3}{6}=\dfrac12$、$P(B)=\dfrac{3}{6}=\dfrac12$。積事象 $A\cap B=\{2\}$ なので $P(A\cap B)=\dfrac16$。一方 $P(A)P(B)=\dfrac12\times\dfrac12=\dfrac14$。 $\dfrac16 \ne \dfrac14$ なので、$A$ と $B$ は独立ではないと判定できます。「偶数と分かると、3以下である割合が少し変わる」ということです。
6. まとめ
第2章 2-2、ポイントを整理します。
- 条件付き確率:$P(A\mid B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)}$($P(B)>0$)。条件 $B$ が「新しい全体」になる(世界が縮む)
- 乗法定理:$P(A\cap B)=P(B)\,P(A\mid B)=P(A)\,P(B\mid A)$。独立かどうかに関係なく使える
- 独立:$P(A\cap B)=P(A)P(B)\iff P(A\mid B)=P(A)$。情報があっても確率が変わらない
- 独立と排反は別物:排反は $P(A\cap B)=0$(足し算で効く)、独立は $P(A\cap B)=P(A)P(B)$(掛け算で効く)。$P(A),P(B)>0$ なら両立しない
- 非復元抽出:1回目で中身が変わるため独立でない → 乗法定理(条件付き確率の掛け算)で計算
次回 2-3 ベイズの定理 では、乗法定理と「向きを入れ替える」発想を組み合わせて、$P(B\mid A)$ から $P(A\mid B)$ を逆算します。今日の乗法定理が、その式の土台になります。
おつかれさま! 合言葉は「足すなら排反、掛けるなら独立」、そして「世界が縮む」。乗法定理 $P(A\cap B)=P(B)P(A\mid B)$ は独立かどうかに関係なく使える万能選手だよ。次はいよいよベイズの定理だ!