外、降っていましたか。傘、そこの立てにどうぞ。今夜は赤ワインにしましょう。雨の日は、なぜか赤が出るんです。
雨の日はね、店の音が変わるんですよ。天井を叩く雨の音があるから、グラスを拭く音も、氷の音も、少し柔らかく聞こえる。常連さんの話し声も、心なしかゆっくりになる。雨は迷惑なものだと思われがちですが、この店では音響装置みたいなものです。
気分も同じでね。落ち込む日、やる気の出ない日、理由もなく沈む日。あれも天気だと思うんです。自分の性格の欠陥だとか、心が弱いだとか、そういう話ではなくて、ただの雨。降る日は降る。そして、降り続けた雨というのを、私は一度も見たことがありません。
だから今夜、気分が晴れないままでもいいんです。ここは雨宿りのための店ですから。晴らして帰る必要はありません。濡れたまま入って、乾かして、まだ小雨のうちに帰る。それで十分です。
どうぞ、ゆっくり。雨の音、悪くないでしょう。
また明日、のれんを出しておきます。