コッターの変革の8段階プロセス
中央大学の「数理・AI・データサイエンスイブニングセミナー」に、毎回参加しています。
先日の回で、話の途中に「コッターの変革の8段階プロセス」というキーワードが出てきました。たとえ話としてさらりと触れられただけで、次のスライドへと話は進んでいきます。
私は、それを知りませんでした。あたりまえのプロセスなのだろうか? と思いながら、その場では黙って頷いていました。
こういう瞬間が、いちばん危ないですよね。知らない言葉を知らないまま頷いてやり過ごすと、二度と自分のところへ戻ってきません。だから今日、ここでまとめておくことにしました。
そもそも、コッターとは何者なのでしょうか。
ジョン・P・コッター。ハーバード・ビジネススクールの教授で、リーダーシップと組織変革の研究者です。
1995年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』へ寄せた論文のタイトルが、そのまま彼の視点を表しています。「Leading Change: Why Transformation Efforts Fail」—— なぜ変革の努力は失敗するのか。翌1996年の著書『Leading Change(企業変革力)』で、この内容が広く知られるようになりました。
つまりこの8段階は、成功事例から抽出した必勝法ではなく、数多くの失敗を観察して、共通する落とし穴を裏返したものです。ここが気に入りました。「こうすれば勝てる」ではなく「ここで転ぶ人が多い」という順番の話だったからです。
前置きが長くなりました。8つの段階は、こうです。
第1段階、危機感を高める。このままではまずい、という共通認識をつくる。
第2段階、推進チームをつくる。一人では動かない。権限と信頼を持つ人を巻き込む。
第3段階、ビジョンと戦略を生み出す。向かう先を、一言で言える形にする。
第4段階、ビジョンを周知徹底する。伝えたつもりでは足りない。行動でも示す。
第5段階、行動しやすい環境を整える。邪魔をしている仕組みや制度を取り除く。
第6段階、短期的な成果を実現する。目に見える小さな勝ちを、早めに出す。
第7段階、成果を活かして、さらに変革を進める。ここで勝利宣言をすると元に戻る。
第8段階、新しいやり方を文化に定着させる。「うちではこうやる」になれば完了。
前半の1〜4が地ならし、5〜6が実際に動かす段階、7〜8が後戻りを防ぐ段階、という構成になっています。
どこが大事でしょうか…。自分の仕事と照らし合わせてみると、6 が大事なのかなとも思いました。
いま、医療業界でお仕事をさせていただいていますが、小さな勝ちをたくさん作っていって信頼を積み上げながら、全体オペレーションを大きく改良できるという感じですからね。データの前処理が多くて、本当に大変です…。
あらためて読み返してみて、引っかかったところが三つあります。
ひとつめ。失敗の典型が「1〜3を飛ばして4から始めること」だとされている点です。
危機感の共有も、推進する仲間も、行き先の言語化もないまま、いきなり周知から入る。新しい仕組みの説明会だけが先に開かれる、あの光景です。
ふたつめは、そしてやっぱり第6段階「短期的な成果」の扱いです。これを軽視して壮大な計画だけを進めると、途中で支持を失って頓挫する。逆にここで成果が出ると、懐疑的だった人が味方に変わる、と。
先ほどお話ししたとおりです。全体オペレーションを一気に変更するのは無理ですからね。少しずつ、すこしずつ。
みっつめは、第8段階。文化に定着するまでやり切らないと元に戻る、という指摘。導入したツールが半年後に誰にも使われていない現場を、いくつも見てきました。
ダッシュボードを作っても、いつまでもExcelから離れられない、とかね。手段が目的になっちゃった。第7段階で勝利宣言をしてしまった結果なのでしょう。
なお、コッター自身は2014年の『Accelerate(実行する組織)』で、この8段階を「順番に一度ずつ登る階段」ではなく「並行して回し続けるもの」として整理し直しています。
変化の速度が上がった時代への修正版、という位置づけです。
こういうフレームワークがあると、物を考えるときに順を追ってチェックができるので、いいですよね。
思いつきで動いたあとに「そういえば危機感は共有できていたか」「仲間は巻き込めていたか」と、あとから照合できる。ゼロから考えるより、抜けを見つけるほうがずっと速いのです。
正直なところ、私は組織を率いて変革を進める立場にはいません。それでも第6段階だけは、名前を知らないまま、すでに現場で使っていたわけです。それが結果オーライだったのかな。残りの7つも、自分の辞書の中に入れておこうと思います。
セミナーの本題ではなく、たとえ話のほうを持ち帰ってきた回になりました。こういう拾い物があるからこそ、わざわざ会場まで足を運ぶ価値があるんですよね。
次回は大阪出張と被るので参加できませんが、継続的に参加していきたいと思います。