企業はどうやって利益を生み出すのか
Corporate Profits売上−費用=利益 ― パン屋の付加価値の復習から
GDPとは何かで、パン屋がパンを1個売るまでの物語を追いかけました。農家が小麦を100円で売り、製粉会社がそれを150円の小麦粉に、パン屋がさらに300円のパンに仕立てる。それぞれの段階で新しく上乗せされた金額を付加価値(仕入れの値段を上回って、その段階で新しく生み出された価値)と呼ぶのでした。パン屋の場合、300円で売って150円で仕入れたので、付加価値は150円です。
この付加価値が、そのままパン屋の懐に残るわけではありません。付加価値の中から、お店を切り盛りするための費用を払い、残った分が利益です。式にすると、売上−費用=利益という、とてもシンプルな引き算になります。
たとえば、パン屋の1か月の売上が300万円だったとします。そこから仕入れ代・人件費・家賃などの費用として270万円を払うと、残る30万円が利益です。この「残った分」をどれだけ大きくできるかが、企業経営の一つの目標になります。パン屋1軒の話も、日本中の企業を合計した話も、この引き算の構造は変わりません。
費用の中身 ― 仕入れ・人件費・家賃・利息
利益を生み出す引き算の、引かれる側にあたる「費用」には、どんなものが含まれるのでしょうか。代表的なものを挙げると、原材料を仕入れる仕入れ費用、働く人に払う人件費、店舗や事務所を借りる家賃、銀行からお金を借りていればその利息などです。
| 費用の項目 | 払う相手 | 相手にとっては |
|---|---|---|
| 仕入れ費用 | 取引先の企業 | その企業の売上 |
| 人件費 | 従業員(家計) | 家計の給料 |
| 家賃 | 建物の持ち主 | 持ち主の収入 |
| 利息 | 銀行 | 銀行の収入 |
ここで注目したいのは、人件費です。企業から見れば人件費は利益を減らす「費用」ですが、給料を受け取る家計から見れば、それは生活を支える「収入」にほかなりません。お金はどのように動いているのかで見たとおり、誰かの支出は誰かの収入になっています。企業の費用を切り詰めることと、家計の収入を増やすことは、実は同じお金の裏表なのです。
つまり、企業が利益を増やす方法は2通りあります。1つは売上を増やすこと、もう1つは費用を減らすことです。ただし、費用の中には人件費のように、減らせば誰かの収入が減ってしまうものも含まれている、という点は覚えておきたいところです。
利益はどこへ行くのか ― 投資・賃金・配当、そして内部留保637兆円
売上から費用を引いて残った利益は、どこへ向かうのでしょうか。主な行き先は4つあります。
| 利益の使い道 | 内容 |
|---|---|
| 投資 | 新しい設備や研究開発にお金を回し、将来の売上や生産性につなげる |
| 賃金 | 従業員への賃上げやボーナスとして還元する |
| 配当 | 会社にお金を出している株主に、利益の一部を分配する |
| 内部留保 | 使わずに会社の中に積み立てておく |
このうち内部留保(利益のうち、配当や税金などで社外に出ていかず、会社の中に積み立てられている部分。会計上は利益剰余金と呼ぶ)は、日本企業全体でおよそ637兆円にのぼり、過去最高を更新し続けています(財務省「法人企業統計」2024年度)。名目GDP約609兆円(2024年度)と並べても、その大きさが分かる規模です。
なぜこれほど大きな金額が積み上がっているのか、そしてこの内部留保がどんな性格のお金なのかは、「もっと深く」で詳しく見ていきます。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
637兆円は、そのまま現金として眠っているわけではない
「内部留保637兆円」と聞くと、企業がどこかの金庫に637兆円分の現金を積み上げているようなイメージを持つかもしれません。しかし、内部留保は会計上の利益の積み重ねを示す数字であって、その中身がすべて現金というわけではありません。実際には、工場や店舗といった設備、研究開発の成果、海外子会社の株式など、すでに形を変えて事業に使われている部分も大きく含まれています。
「溜め込み」批判と「備え」擁護
内部留保が過去最高を更新し続けていることについては、意見が分かれます。一方には、賃上げや設備投資にもっとお金を回すべきで、内部留保はお金を溜め込みすぎている、という批判があります。企業が利益を出しているなら、その分を家計や取引先にもっと還元してほしい、という見方です。
もう一方には、内部留保は将来のための必要な備えだ、という擁護もあります。景気の悪化や取引先の急な変化、大規模な設備更新や海外展開など、いざというときに手元の余力がなければ、企業は身動きが取れなくなります。過去に不況を経験した企業ほど、備えを厚くしておきたいと考えるのは自然なことです。
どちらの見方にも一理あり、どちらか一方が正解というわけではありません。内部留保という1つの数字の奥に、こうした立場の違う見方が存在していることを、まずは知っておきましょう。
勤め先や好きな企業の決算を見たことはあるでしょうか。売上と利益の差は、どれくらいあるでしょうか?
ヒント: 上場企業の決算短信は、証券会社のサイトや企業の公式サイトのIR情報から誰でも見られます。
「企業がもうかれば、家計も豊かになる」は、自動的に成り立つでしょうか?
ヒント: 利益の4つの使い道(投資・賃金・配当・内部留保)のうち、家計に直接届くのはどれか考えてみましょう。