現役世代と高齢者
Supporting Generations支え手と受け手のバランス ― 高齢化率29.4%が意味すること
年金制度の基本で見たとおり、公的年金は現役世代の保険料が、その時点の高齢者への給付に充てられる賦課方式で運営されています。この仕組みの重さは、支え手(現役世代)と受け手(高齢者)の人数のバランスによって変わります。
日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は29.4%です(内閣府「高齢社会白書」2025年10月時点)。およそ3.4人に1人が65歳以上という計算になり、この割合は世界でも高い水準にあります。
高齢化率が上がっていくのは、平均寿命が延び、生まれてくる子どもの数が減るという、2つの動きが同時に進んでいるためです。どちらか一方だけの動きではなく、長生きする人が増えることと、次の世代の人数が増えないことが重なって、人口全体に占める高齢者の割合を押し上げています。
さらに、国の将来推計によれば、2070年には2.6人に1人が65歳以上になる見込みとされています(高齢社会白書)。支え手と受け手のバランスは、これからも変わり続けていくことになります。
この数字がニュースで繰り返し取り上げられるのは、単なる人口の話にとどまらないからです。賦課方式のもとでは、支え手と受け手の人数比がそのまま、年金や医療、介護といった社会保障制度の持続性に直結します。年金の話をするとき、必ずこの高齢化率という数字が土台として登場するのは、そのためです。
「騎馬戦」から「肩車」へ ― 支える人数の変化を表すたとえ
高齢化率の変化を説明するときによく使われるのが、「騎馬戦」から「肩車」へ、というたとえです。かつては大勢の現役世代が1人の高齢者を支える騎馬戦のような構図でしたが、高齢化が進むにつれて、支える現役世代の人数が減っていき、やがてはほぼ1人がほぼ1人を支える肩車に近い構図へと変わっていく、というイメージです。
このたとえが伝えたいのは、正確な人数の比率そのものというより、支える側の余裕が、時間とともに小さくなっていくという方向性です。大勢で1人を支えていた時代と比べて、支え手1人あたりの負担は重くなっていきます。
年金制度の基本で見た賦課方式では、現役世代が納める保険料の総額が、そのまま高齢者への給付の原資になります。騎馬戦であれば、大勢で費用を分け合えるので1人あたりの負担は軽くて済みますが、肩車に近づくほど、1人が受け持つ費用は重くなっていきます。年金だけでなく、後で見る医療や介護の費用も、同じ支え手の数で分け合う構造を持っています。
ただし、このたとえには注意点もあります。「65歳以上はすべて支えられる側」という前提そのものが、実態と少しずつずれてきているからです。この点は、後の節でもう一度取り上げます。
いずれにせよ、支え手1人あたりの負担が重くなっていくという方向性そのものは変わりません。この変化にどう向き合うかは、保険料をどこまで上げるか、給付をどう見直すか、支え手の範囲をどう広げるかなど、いくつかの選択肢の組み合わせで議論されています。どれか1つの正解があるわけではなく、複数の選択肢のバランスの取り方が問われている、という段階です。
社会保険料の重さ ― 手取りを左右するもう一つの数字
支え手と受け手のバランスは、統計上の数字であると同時に、毎月の給与明細にも表れています。厚生年金保険料に加えて、健康保険料や介護保険料、雇用保険料といった社会保険料(社会保障制度を維持するために、給与などから徴収される保険料の総称)が、給料から天引きされているはずです。
これらの保険料は、それぞれ役割が異なります。健康保険料は病気やけがの医療費、介護保険料は40歳から徴収が始まり将来の介護サービスの費用、雇用保険料は失業した際の給付などに充てられます。厚生年金保険料とあわせて、給料から天引きされる項目はいくつも重なっています。
額面の給料から、これらの社会保険料と税金を差し引いた金額が、実際に手元に入る手取りです。賃金と実質賃金で見たように、額面の給料が同じでも、社会保険料の負担が重くなれば、手取りは目減りします。額面の給料が去年と同じでも、天引きされる保険料が増えていれば、手取りは実質的に減っていることになります。
支え手の人数が減り、受け手の人数が増えていく局面では、1人あたりの給付を維持しようとすれば、支え手1人あたりの社会保険料の負担は重くなりやすい構図にあります。給与明細に並ぶそれぞれの保険料の名前は、この世代間の支え合いの仕組みが、具体的な金額として表れたものです。
年金制度の基本で見たとおり、厚生年金保険料は給料のおよそ9.15%が本人負担分でした。ここに健康保険料や介護保険料、雇用保険料が積み重なるため、給与明細の「控除」欄に並ぶ社会保険料の合計は、給料の1割強からそれ以上になる人も少なくありません。人によって年齢や扶養家族の有無で金額は変わるため、正確な割合は自分の給与明細で確かめるのがいちばん確実です。
この社会保険料の重さがどこまで増えていくかは、年金だけでなく、医療や介護にどれだけの費用がかかっていくかにも左右されます。給付費の全体像がどのくらいの規模で、何にどう使われているのかは、別のテーマであらためて数字とともに見ていきます。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
「65歳以上=支えられる側」とは限らない
「騎馬戦から肩車へ」というたとえは、65歳以上をすべて「支えられる側」、64歳以下をすべて「支える側」として計算しています。しかし実際には、65歳を過ぎても働き続ける人や、専業主婦(夫)から仕事に復帰する人が増えており、年齢だけで支え手と受け手を線引きすることは、実態と少しずつずれてきています。
65歳を過ぎても会社に勤め、給料をもらい続けている人は、年齢のうえでは「高齢者」に分類されても、働いて厚生年金保険料を納めているという意味では、支え手の側にも立っています。「高齢者=支えられる側」という単純な図式だけでは、こうした働き方の実態を見落としてしまいます。
働く高齢者・女性の就業率の上昇という変化
働く高齢者が増え、女性の就業率が上昇すれば、統計上は65歳以上や専業主婦(夫)に分類されていた人の一部が、保険料を納める側にも回ることになります。年齢という単純な線引きだけでは見えてこない変化が、支え手の実際の人数には起きています。
こうした働き方の変化は、「支え手の数=現役世代の人口」という単純な計算だけでは捉えきれない部分です。年齢という切り口に加えて、実際に働いて保険料を納めている人がどれだけいるかという切り口も、あわせて見ていく必要があります。「肩車」というたとえは分かりやすい反面、こうした細部を単純化してしまう面も持っている、ということは覚えておいて損はありません。
「65歳以上=支えられる側」という線引きは、今の実態に合っているでしょうか?
ヒント: 身の回りで65歳を過ぎても働いている人や、家族の働き方を思い浮かべてみましょう。
自分の給与明細から、社会保険料の合計が給与の何%を占めているか計算してみましょう。
ヒント: 明細に並ぶ「健康保険」「厚生年金」「介護保険」「雇用保険」の金額を合計し、額面の給料で割ってみましょう。