お金とは何か
What is Money?お金の三つの働き ― 物々交換の不便さから生まれた道具
昔、お金がなかった時代、人は欲しいものを手に入れるのに物々交換(お金を使わず、品物と品物を直接交換すること)をしていました。米を持っている人が靴を欲しがっていても、靴を持っている人がちょうど米を欲しがっているとは限りません。お互いの欲しいものが一致してはじめて交換が成立する、とても不便な仕組みでした。
この不便さを解決するために生まれたのが、お金です。お金には三つの働きがあります。
一つ目は交換の手段(欲しいものを、お金を介して手に入れられる働き)です。米を売ってお金に換え、そのお金で靴を買えば、相手が何を欲しがっているかを気にする必要がなくなります。二つ目は価値のものさし(異なる品物の価値を、同じ単位で比べられる働き)です。「米1俵は5,000円、靴は8,000円」というように、性質のまったく違うものでも金額という共通の単位で比べられます。三つ目は価値の保存(価値を減らさずに、あとで使うために取っておける働き)です。魚を捕っても放っておけば腐ってしまいますが、お金に換えておけば、価値を保ったまま来月でも来年でも使えます。
給料日にお金を受け取り、家賃や食費に使い、余った分を貯金する。私たちが毎月当たり前にしているこの一連の行動は、この三つの働きがそろって初めて成り立っています。
現金だけがお金ではない ― 財布の中身と、口座の中の数字
「お金」と聞くと、多くの人は財布の中の紙幣や硬貨を思い浮かべます。でも、今の生活を振り返ってみると、現金を実際に手渡す場面は意外と少ないのではないでしょうか。
給料は、多くの場合、会社から銀行口座へ直接振り込まれます。封筒に入った現金を受け取るのではなく、口座の残高という数字が増えるだけです。買い物も同じで、クレジットカードや電子マネーで支払えば、店の売上もあなたの口座の残高も、紙幣が一枚も動くことなく数字だけが変わります。
この「口座の残高」の正体は預金(銀行に預けているお金。銀行の帳簿上の数字として管理されている)です。世の中に出回るお金のうち、実に9割ほどがこの預金という形をしています(詳しくは日本にはどれくらいのお金があるのかで数字を見ていきます)。現金は、お金全体のごく一部でしかありません。
つまり、私たちが日々やり取りしているお金の多くは、紙や金属ではなく、銀行のコンピュータに記録された数字なのです。
お金は「信用」でできている ― 一万円札の製造原価は紙代程度
一万円札を手に取ってみてください。ただの紙です。偽造防止のための特殊な印刷技術にコストはかかっていますが、その紙切れ一枚を作るのにかかる費用は、額面の一万円よりはるかに安く、紙代程度に過ぎません。
それなのに、なぜ私たちは一万円札で一万円分の買い物ができるのでしょうか。答えは、「みんなが、この紙を一万円として受け取ると信じているから」です。コンビニの店員も、家賃を受け取る大家さんも、「この紙を次に誰かに渡せば、同じように一万円として受け取ってもらえる」と信じています。この信頼の連鎖が途切れない限り、紙切れは一万円札であり続けます。
逆に言えば、もし社会全体がこの紙を「もう一万円としては受け取らない」と思い始めたら、その瞬間にただの紙に戻ってしまいます。お金の価値は、金属や紙そのものにあるのではなく、信用(社会全体が「これは価値がある」と信じて共有している状態)という、目に見えないものの上に成り立っているのです。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
昔は「金と交換できる」ことが裏付けだった
かつて、多くの国のお金には金本位制(紙幣を、決まった量の金(きん)といつでも交換できると国が保証する制度)という裏付けがありました。紙幣そのものに価値があるのではなく、「この紙を持っていけば、金庫にある金と交換してもらえる」という約束が、紙幣の価値を支えていたのです。金という、誰の目にも価値が分かりやすい実物が土台にありました。
今は「信用」そのものが裏付け
しかし今の日本を含む多くの国では、金との交換保証をやめた管理通貨制度(金などの実物と交換する約束をせず、国と中央銀行の信用だけを裏付けにお金を発行する仕組み)を採用しています。日本銀行券(お札)は、もう金と交換できません。その代わりに裏付けとなっているのは、「日本銀行と日本という国が、お金の価値をきちんと管理してくれる」という社会全体の信用です。
実物の裏付けから、目に見えない信用の裏付けへ。この移行こそが、現代のお金を理解するうえでの出発点になります。
スーパーのポイントやSuicaなどの電子マネーは、「お金」と言えるでしょうか?
ヒント: このページで見た三つの働き(交換の手段・価値のものさし・価値の保存)に、一つずつ当てはめて考えてみましょう。
もし、日本に住む人みんなが「円はもう信用できない」と思い始めたら、何が起きるでしょうか?
ヒント: 「信用の連鎖が途切れたら、ただの紙に戻る」という話を思い出してみましょう。