なぜ物価は上がるのか

Why Prices Rise

値段は需要と供給で決まる

台風で野菜の収穫が減ると、スーパーのキャベツが急に高くなります。連休の直前になると、同じホテルの同じ部屋でも宿泊料金が跳ね上がります。どちらも、身近に経験したことがあるのではないでしょうか。

値段は、誰か一人が決めているわけではありません。「買いたい人がどれくらいいるか」(需要)と、「売り物がどれくらいあるか」(供給)のバランスで決まります。キャベツが不作で数が少なくなれば、限られた数を求める人同士で値段が上がります。連休のホテルも、部屋数は変わらないのに泊まりたい人が増えるので、値段が上がります。

物価全体が動くときも、この基本の考え方は変わりません。物価が上がるときは、経済全体で「欲しい人が増える」側から動くこともあれば、「作る費用が増える」側から動くこともあります。次の節から、それぞれを見ていきます。

「欲しい人が増える」と上がる

景気が良く、給料が増えたりボーナスが弾んだりすると、家計は財布のひもを緩めます。旅行に行く人、外食を増やす人、家電を買い替える人が増え、あちこちの店やサービスで「欲しい人」が「売り物」を上回る場面が増えます。すると、企業は値段を上げても売れると判断し、価格を引き上げます。

このように、需要が増えることが起点になって起きる物価上昇を、需要側の物価上昇と呼びます。景気が良いときに起きやすい、いわば「うれしい悲鳴」に近い値上がりです。

「作る費用が増える」と上がる

値上がりの理由は、欲しい人が増えることだけではありません。商品やサービスを作る側の費用が増えることでも、値段は上がります。原材料の値段が上がる、原油や電気代などのエネルギー費用が上がる、働く人の人件費が上がる、モノを運ぶ輸送費が上がる。こうした費用がかさむと、企業はそのままでは利益が出せなくなり、価格に上乗せせざるを得なくなります。

このように、作る側の費用が増えることが起点になって起きる物価上昇を、供給側の物価上昇と呼びます。欲しい人が減っていても、費用が上がれば値段は上がります。景気の良し悪しとは別の理由で起きる値上がりだという点が、需要側の物価上昇との違いです。

2020年代の物価高はどちらか

では、2020年代の日本で続いている物価高は、需要側と供給側のどちらから始まったのでしょうか。消費者物価指数(CPI)で確認すると、総合指数は2025年平均で前年比+3.2%、生鮮食品を除く総合でも+3.1%と、目立った上昇が続きました(総務省、2025年平均)。2026年6月には前年同月比+1.7%まで伸びは縮まっていますが、上昇そのものは続いています(総務省、2026年6月)。

この物価高は、家計の財布が緩んで需要が急に増えたことが起点ではありません。円安と物価で詳しく見るように、輸入する原材料やエネルギーの値段が上がったこと、そこに円安が重なったことが起点でした。つまり、費用側の物価上昇が中心にあり、そこから企業の価格転嫁や賃上げの動きへと広がっていった、という整理ができます。

もっと深く ― 「上がりそうだ」が本当に上げるDEEP DIVE

ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。

値上げの「予想」が、値上げを引き寄せる

物価は、需要と供給という実際の数量だけでなく、「これから物価が上がりそうだ」という予想そのものによっても動きます。これを期待インフレ(人々が抱く、これからの物価上昇についての見通し)と呼びます。

企業が「原材料はこれからも上がり続けるだろう」と考えれば、値上げに慎重だった姿勢を変え、先回りして価格を引き上げます。働く人が「物価はこれからも上がるだろう」と考えれば、生活を守るために賃上げを求める動きが強まります。値上げされるはずだという予想が、実際の値上げ交渉や賃上げ要求を後押しし、結果として物価を押し上げる。予想が現実を動かしてしまうという、少し不思議な仕組みです。

考えてみるTHINK
Q1

最近の値上げのニュースを1つ選んで、需要側(欲しい人が増えた)と供給側(作る費用が増えた)のどちらが理由か考えてみましょう。

ヒント: その商品の値上げの理由が、ニュースの中でどう説明されていたか思い出してみましょう。

Q2

人手不足は、物価をどちらの経路で動かすでしょうか?

ヒント: 人を雇う費用は、企業にとって何にあたるか考えてみましょう。

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