著作権
Copyright知的財産権とは ― かたちのない財産を守る権利
知的財産とは、知的活動によって創作された著作物や発明、商標など、財産的に価値があるもののことです。小説・漫画・映画といった作品はもちろん、発明品、新しいアイデア(発案)、企業のロゴ、新種の植物、さらには企業が外部に漏らさず守っている営業秘密まで、かたちのないものが幅広く含まれます。
この知的財産を守るための権利が知的財産権です。知的財産権は、大きく次の3つに分けられます。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| ① 産業財産権 | 特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つ。特許庁が所管。 |
| ② 著作権 | 小説・音楽・美術・プログラムなどの著作物を保護する権利。文化庁が所管。 |
| ③ その他 | 回路配置利用権(半導体の設計図のようなもの)、育成者権(種なしシャインマスカットのような新品種の育成方法を守る権利)など。 |
このページでは、②の著作権を中心に、身近な①産業財産権のしくみもあわせて見ていきます。
産業財産権 ― 新しい技術・デザイン・名前を守る
産業財産権は、新しい技術、新しいデザイン、新しいネーミングなどについて一定期間の独占権を与え、模倣を防ぐことで研究開発への報酬を保証したり、取引上の信用を維持したりして、産業の発展を図るための権利です。特許庁が所管しており、特許庁に届け出て審査を通ると権利が発生する方式主義(手続きを経てはじめて権利が生まれる考え方)を採っています。産業財産権には、次の4つがあります。
| 権利 | 保護期間 | 対象 |
|---|---|---|
| ① 特許権 | 出願から20年 | 自然法則を利用した発明のうち、特に高度なもの |
| ② 実用新案権 | 出願から10年 | 自然法則を利用した技術的思想の創作で、物品の形状・構造・組み合わせに関わるもの |
| ③ 意匠権 | 出願から25年(更新なし) | 物品や物品の部分の形状・模様・色彩など、外観のデザイン |
| ④ 商標権 | 登録から10年(更新は無制限) | 商品・サービスを他者と区別するための文字・図形・記号・色彩・音など |
①特許権の例としては、フリクションペン(消せるボールペン)や、青色LEDが挙げられます。青色LEDは1993年に中村修二さんが発明したものですが、当時勤めていた日亜化学工業との間で特許の対価をめぐる裁判となり、2001年8月から2005年1月まで争われました。最終的に8億4000万円の和解金で決着し、現在この特許自体は放棄されています。ひとつの発明が、大きな裁判にまで発展した例です。
②実用新案権の例には、折りたためるティッシュ箱(ネピア)や、クイックルワイパー(花王)、シャンプーボトル側面のギザギザ(花王)があります。このギザギザは花王の発明ですが、業界全体を底上げするために、花王はこの実用新案権をあえて放棄しました。目の不自由な方でもシャンプーとリンスを触感で区別できるようにという工夫で、いまでは業界標準になっています。
③意匠権の例には、超立体マスク(ユニ・チャーム)があります。意匠権は商品全体ではなく、特徴的な部分だけを登録することもできます。たとえばiPhoneも、外観の特徴が似ていれば意匠権を根拠に模倣品だと主張できます。更新ができない、つまり保護期間が来たら誰でも自由に使えるようになる、という点がポイントです。
④商標権は10年ごとの更新ですが、更新回数に制限がありません。ルイ・ヴィトンがロゴを少しずつ変えながらブランドを守り続けているのも、商標権を更新し続けているからです。2017年には、ロングセラー消しゴム「MONO」の配色によく似た配色の商品が販売され、話題になったこともあります。気になる特許や商標は、特許庁が運営する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で誰でも検索できます。
著作権 ― 創作した瞬間に生まれる権利
著作者の権利を著作権と呼びます。対象は小説・脚本・論文・講演、音楽、映画、美術、写真、プログラムなど非常に幅広く、出来栄えのよしあしに関係なく、著作物を創作した著作者に与えられる権利です。文化庁が所轄しており、産業財産権とは違って、届け出をしなくても創作と同時に権利が発生する無方式主義を採っています。複数人で制作し、著作権を分離できない作品は共同著作物と呼ばれ、関わった全員が著作者となります。
著作権は、大きく次の2つで構成されています。
| 分類 | 含まれる権利 |
|---|---|
| ① 著作者人格権(譲渡・相続不可) | 公表権/氏名表示権/同一性保持権 |
| ② 著作権(財産権)(譲渡・相続可) | 複製権など12の権利(下表) |
①著作者人格権は、著作者が精神的に傷つけられないようにするための権利です。著作者本人にのみ与えられ、譲渡も相続もできません。著作者が亡くなると権利そのものは消滅しますが、死後もこの権利を侵害するような行為は禁じられています。
| 権利 | 内容 |
|---|---|
| 公表権 | 未公表の著作物を、公表するかしないかを決定する権利 |
| 氏名表示権 | 著作物を公表するとき、著作者名を表示するかどうか、表示するなら実名かペンネームかを決める権利 |
| 同一性保持権 | 著作物の内容やタイトルを、無断で改変されない権利 |
②財産権は、著作者の財産的な利益を保護する権利です。著作者人格権と違い、一部または全部を他人に譲渡したり相続させたりできます。著作権(財産権)を持つ人を著作権者と呼びます。保護期間は著作者の死後70年です。無名・変名・団体名義・映画の著作物については、公表した年の翌年の1月1日から起算して70年となります。財産権には、次のように「複製権」から「翻案権」まで12の権利があります。
| 権利 | 内容 |
|---|---|
| 複製権 | 著作物を複製(印刷・録音・録画など)する権利 |
| 上演権 | 著作物を公に上演する権利 |
| 演奏権 | 著作物を公に演奏する権利 |
| 上映権 | 著作物を公に上映する権利 |
| 公衆送信権 | 著作物を通信などによって公衆に送信する・送信可能な状態にする権利 |
| 口述権 | 言語の著作物を朗読などで公に口述する権利 |
| 展示権 | 美術の著作物を公に展示する権利 |
| 頒布権 | 映画の著作物を頒布する権利 |
| 譲渡権 | 映画以外の著作物を譲渡する権利 |
| 貸与権 | 映画以外の著作物を貸与する権利 |
| 翻訳権 | 著作物を翻訳する権利 |
| 翻案権 | 著作物を編曲・変形・脚色など、作り変える権利 |
伝達者の権利(著作隣接権)
著作物を公衆に伝達する人や事業者にも、権利が認められています。歌手・演奏家・俳優などの実演家、CDなどの制作者(レコード製作者)、放送事業者などを著作隣接権者と呼び、作品そのものを創作したわけではなくても、作品を世の中に届ける役割を担っているとして著作隣接権という権利が与えられています。著作隣接権は、歌手・俳優などの実演家のほか、レコード製作者・放送事業者にも認められていますが、ここでは実演家の権利を例に、その構成を見てみましょう。
| 分類 | 権利 | 内容 |
|---|---|---|
| 実演家人格権 | 氏名表示権 | 著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないか、表示するなら実名か変名かを決定する権利 |
| 実演家人格権 | 同一性保持権 | 著作物の内容について無断改変を禁止する権利 |
| 財産権の一部(許諾権) | 録音権 | 実演家が実演を録音することを他人に許可する権利 |
| 財産権の一部(許諾権) | 録画権 | 実演家が実演を録画することを他人に許可する権利 |
| 財産権の一部(許諾権) | 送信可能化権 | Webページなどを利用して実演・CDなどを自動的に送信できる状態にすることを他人に許可する権利 |
| 財産権の一部(許諾権) | 貸与権 | CDなどを貸与することを他人に許可する権利(販売後1年間) |
| 財産権の一部(報酬請求権) | 商業用レコード二次使用料を受ける権利 | 実演家・CD製作者が、CDなどの放送や有線放送について使用料を受ける権利 |
| 財産権の一部(報酬請求権) | 貸与報酬を受ける権利 | 実演家・CD製作者が、貸しCD業者から報酬を受ける権利(貸与権の消失後69年間) |
著作権の例外規定
著作権は創作と同時に自動的に発生する強い権利ですが、常に著作者の許可が必要だとすると、社会生活や教育活動に支障が出てしまいます。そこで、一定の条件を満たす場合には、著作者の許可がなくても著作物を利用できる例外が定められています。
| 規定 | 内容 |
|---|---|
| 引用 | 公正な慣行に合致し、報道・批評・研究などの目的上正当な範囲内であれば、著作者の許可なく他人の著作物を引用できる |
| 私的使用のための複製 | 個人的に、または家庭内など限られた範囲で使うためであれば、著作物を複製できる |
| 教育機関における複製等 | 学校その他の教育機関で、授業のために必要な範囲であれば、著作物を複製・公衆送信できる |
| 図書館等における複製 | 国立国会図書館や公共図書館などでは、調査研究のための複製など、一定の範囲で著作物を複製できる |
| 営利を目的としない上演等 | 入場料を取らず、演奏者などにも報酬が支払われない場合は、著作物を無許可で上演・演奏・上映・口述できる |
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス ― 条件付きで使ってよいという意思表示
著作権は無方式主義で自動的に発生するため、本来、著作物を利用したいときには著作者の許可が必要です。しかし、著作者があらかじめ「この条件を守れば自由に使ってよい」と意思表示しておく仕組みもあります。それがクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)です。画像素材のダウンロードなどで目にしたことがある方も多いはずです。CCライセンスは、次の4つのマークの組み合わせで表されます。
| マーク | 意味 | 条件 |
|---|---|---|
| BY(表示) | Attribution | 著作者のクレジット(氏名など)を表示すること |
| NC(非営利) | NonCommercial | 営利目的での利用をしないこと |
| ND(改変禁止) | NoDerivatives | 元の作品を改変しないこと |
| SA(継承) | ShareAlike | 元の作品と同じ条件のライセンスで公開すること |
4つのマークのうち、BY(表示)だけは、すべてのCCライセンスに必ず含まれます。クレジット表示だけは省略できない、ということです。たとえば「CC BY」だけならクレジット表示さえすれば商用利用も改変も自由ですが、「CC BY-NC-ND」まで条件が重なると、クレジットを表示したうえで非営利・改変なしの範囲でしか使えません。マークの組み合わせによって、自由度がかなり変わってくる点に注意しましょう。
考えてみましょう ― 身近な素材サイトのライセンス表示を、実際に確認してみましょう。いらすとやのようなフリー素材サイトには、どのCCライセンス、あるいは独自の利用規約が使われているでしょうか。Adobe Stockのような有料の素材サイトとは、利用条件にどんな違いがあるでしょうか。実際にサイトを開いて見比べてみると、「フリー」という言葉の中にも幅があることが分かります。
ここからは、基礎の一歩先の話です。初心者の方は読み飛ばして構いません。でも、権利の話に興味を持ち始めた方ほど「そうだったのか」となる話です。
青色LEDの発明者は、なぜ会社と争ったのか
青色LEDは、それまで難しいとされていた発光ダイオードの技術を実現した大発明で、1993年に中村修二さんが当時勤めていた日亜化学工業で発明しました。ところが、この発明が会社に莫大な利益をもたらしたにもかかわらず、発明者本人への対価がごくわずかだったことから、両者の間で特許の対価をめぐる裁判が起こります。2001年8月から2005年1月まで争われたこの裁判は、最終的に8億4000万円の和解金で決着しました。会社の発明を、発明した本人が特許権として主張できるのかどうか——特許権が「誰のものか」を考えさせられる、象徴的な出来事でした。現在この特許自体は、すでに放棄されています。
花王は、なぜギザギザを独占しなかったのか
シャンプーボトルの側面にあるギザギザは、花王が実用新案として登録した発明です。目が不自由な方でも、手で触るだけでシャンプーとリンスを区別できるようにという工夫でした。花王はこの権利を独占せず、あえて実用新案権を放棄し、他社にも自由に使えるようにしました。結果として、いまでは業界全体の標準的なデザインになっています。自社の利益より、業界全体、ひいては使う人全体の利益を優先した判断だったといえます。
独占と共有、どちらが「得」なのか
知的財産権は、独占して初めて意味を持つ場面が多いのは事実です。しかし、この2つの例が示すように、権利を独占することだけが唯一の正解ではありません。時に権利をあえて手放すことが、業界全体の発展や、自社の評判の向上、さらには社会全体の利益につながることがあります。ページの前半で見たクリエイティブ・コモンズ・ライセンスも、実はこの発想の延長線上にあります。「守る」と「開く」、そのバランスをどう取るかは、これからの創作者にとっても、企業にとっても続くテーマです。
教室のひとこま
最後に、このテーマを教えるとき、教室で毎回のように交わされるやりとりを。
講師
講師著作権の回は、研修の中でも特に質問が集中する分野です。「知らずに人の写真を使っていた」「会社のロゴを真似たデザインを作りかけていた」——そんな冷や汗をかいた経験を、みなさん一つは持っています。