情報デザインの流れ
Design Processコミュニケーションと情報デザイン
前のレッスンでは、情報デザインの基本的な考え方を見てきました。ここでは、実際に自分の手を動かしながら、情報デザインの流れを体験してみましょう。本来であれば、飲食店のポスターを実際にデザインする演習をするところですが、ここでは文章だけで、情報デザインの考え方を体験できる形に組み替えています。
あらためて確認しておくと、情報デザインとは、Webサイトやメニュー表の見た目をきれいにすることではありません。受け手に合わせて、情報を整理して伝えることです。これから行う演習も、「うまい文章を書く」ことが目的ではなく、「相手に合わせて情報を選び直す」練習だと捉えてください。
考えてみましょう ― ペルソナ設定を練習する
次の4つのステップで、実際にペルソナ設定(想定する読み手・顧客像を、具体的に思い描くこと)を練習してみましょう。
- 自分がよく行く飲食店を1つ思い浮かべる。実際に行ったことのあるお店を選ぶと、考えやすくなります。
- そのお店に来る顧客層を、できるだけ具体的に思い浮かべる。これが、ペルソナ設定の練習です。
- そのお店の価値は何か、考えてみる。2で思い浮かべた人が、そのお店に何を求めているかを考えます。
- 3で考えた価値をふまえて、そのお店の紹介文を100文字程度で書いてみる。そのお店に来てもらうための紹介文です。
ペルソナは、具体的であるほど考えやすくなります。たとえば、次のような顔ぶれを思い浮かべてみると、同じお店でも求めているものがまったく違うことに気づくはずです。週末に一人でゆっくり過ごしたい読書好きな人、短時間でランチを済ませたい多忙な人、地元の隠れた名店を探している大学生、糖質制限やダイエット中の健康志向な女性、記念日を静かに祝いたい老夫婦、深夜まで営業しているお店を探している夜型人間、インスタ映えするメニューを求めるインフルエンサー——同じお店の常連客の中にも、これだけ違うタイプの人がいます。
たとえば「週末の楽しみは、ピザ窯で焼いた自家製ナポリピッツァ。お気に入りのワインと一緒に、のんびり週末を過ごしませんか」というように、ターゲットを絞った紹介文を書いてみると、誰に向けた文章なのかがはっきりします。同じお店について、違うペルソナに向けてもう1パターン書いてみると、伝える情報の選び方がどう変わるか、実感しやすくなります。
演習のゴール ― 情報デザインの視点から
この演習の目的は、単に文章を書くことではありません。受け手(ペルソナ)の状況やニーズに応じて情報を最適化する、情報デザインのプロセスを体験することです。ポイントは、次の3つです。
- ターゲットの構造化。相手の属性や状況を深く分析し、何を求めているかを明確にします。(なぜこの人はこのお店に来てくれるのだろう?)
- 情報の取捨選択。お店の膨大な情報の中から、そのターゲットにいちばん刺さる要素(価値)を選び出します。(このお店の強みは何だろう?)
- メッセージの最適化。100文字という制約の中で、意図した行動(来店)を促すための、効果的な表現を選びます。
この演習を通じて身につけたいのは、情報を「誰に・何を・どのように」届ければ目的を達成できるか、という情報デザインの本質的なスキルです。
ここからは、基礎の一歩先の話です。初心者の方は読み飛ばして構いません。でも、100文字の紹介文づくりに苦労した方ほど「そうだったのか」となる話です。
最初の数秒で、読むか読まないかが決まる
紹介文にせよ、Webページの見出しにせよ、人は最初に目にした数秒で、その先を読み続けるかどうかを無意識に判断しているといわれます。心理学では、これを第一印象効果(最初に受け取った情報が、その後の印象全体を強く左右する心理的な傾向)と呼びます。
だからこそ、情報の取捨選択が重要になる
100文字という短い制約の中で紹介文を書く演習が難しく感じられるのは、まさにこの「最初の数秒」に、伝えたい情報のすべてを詰め込めないからです。あれもこれも伝えたくなる気持ちを抑えて、そのペルソナにいちばん刺さる要素をひとつだけ選び抜く——この取捨選択こそが、情報デザインでいちばん難しく、いちばん重要な作業です。
同じお店でも、正解の文章はひとつではない
同じお店を紹介する文章でも、読書好きな人に向けた文章と、記念日を祝いたい老夫婦に向けた文章とでは、選ぶべき情報も、使うべき言葉もまったく違うものになります。「誰に向けて書くか」を決めることが、「何を書くか」よりも先に来る——これが、情報デザインの流れを一言でまとめた姿だといえます。
教室のひとこま
最後に、このテーマを教えるとき、教室で毎回のように交わされるやりとりを。
講師
講師この演習をすると、最初はみなさん「お店の魅力を全部書きたい」と欲張ってしまうのですが、100文字という制約の中でそれをやろうとすると、結局何も伝わらない文章になってしまいます。情報を削る勇気を持てるかどうかが、この演習でいちばん試されるところです。