モデル化とシミュレーション
Model & Simulationモデル化とシミュレーション
モデル化とは、現実の複雑な物事を、分かりやすく整理して表すことです。シミュレーションとは、そのモデルを使って、実際に起こる前の未来を試してみることです。
たとえば自動車の衝突実験は、現実の車を何度もぶつけて壊すのではなく、コンピュータ上のモデルで再現し、シミュレーションによって安全性を検証しています。ただし、車体の曲線構造のような複雑な形状を扱うと計算量が非常に多くなるため、このような精緻なシミュレーションは、生成AIの技術をもってしても、まだまだ発展途上の分野のようです。
講師業に必要なモデルとシミュレーション
モデル化とシミュレーションは、コンピュータの中だけの話ではありません。業務マニュアルを例に考えてみましょう。業務マニュアルは、実際の仕事のすべてを一言一句書き記すのではなく、重要な手順だけを整理して「作業の流れ」として表したものです。これは、現実の業務を分かりやすく整理した、まさにモデル化です。
そして、マニュアルを読む人は、その手順を頭の中でたどることで、「こういう順番で仕事をするのか」と作業の流れをイメージできます。これは、頭の中で仕事の流れを試している状態なので、一種のシミュレーションだといえます。マニュアルを作る側も、読む側も、知らず知らずのうちにモデル化とシミュレーションを行っているのです。
サイコロを1万回振ってみる
シミュレーションの感覚をつかむ実習として、Scratchでサイコロを何度も振るプログラムを作ってみます。次の例は、サイコロを10000回振って、「1の目」が出る割合Pを求めるシミュレーションです。
サイコロの目が1〜6の6通りである以上、理論上は1の目が出る確率はおよそ6分の1(約16.7%)に近づいていくはずです。実際に何度も振る回数を増やしていくと、割合Pがその値に近づいていく様子を確認できます。次の例は、乱数1〜100を100回振って、特定の目が出る割合を求める版です。
試行回数を増やすほど、実際の結果は理論上の確率に近づいていきます。これは、現実で何度も試すには時間もコストもかかることを、コンピュータの中で何度も繰り返すことによって、短時間で確かめられるという、シミュレーションの大きな利点を示す例です。
どこまで正確さを求めるか
モデル化とシミュレーションを行ううえで、常に付きまとう問いが2つあります。ひとつは「どこまで正確さを求めるか」ということです。研修や講座の場では、やってみないと分からないことが多いため、細部までは詰め切らず、ざっくりとしたモデルで進めることが多いのが実情です。
もうひとつは「モデルが適切かどうか」という問いです。作ったモデルが現実をうまく表しているかどうかは、実際に動かしてみるまで分かりません。ここは、トライ&エラー(試しては直す、を繰り返すこと)が必要な領域です。完璧なモデルを最初から作ろうとするのではなく、ひとまず動かしてみて、ズレがあれば直していく——この姿勢が、モデル化とシミュレーションを実務で使いこなすコツです。
考えてみましょう ― 身の回りには、モデル化とシミュレーションを活用した公開サービスがいくつもあります。実際にアクセスして、どんなモデルが使われていそうか、想像してみましょう。
| サービス | 内容 |
|---|---|
| 日本道路交通情報センター(高速道路の渋滞予測) | 過去の交通データをもとに、高速道路の渋滞状況をモデル化して表示・予測する |
| さくら開花予想(ウェザーマップ) | 気温の推移データから、桜の開花日をモデル化して予測する |
| 頭痛ーる | 気圧の変化データから、頭痛が起こりやすいタイミングをモデル化して予測する |
ここからは、基礎の一歩先の話です。初心者の方は読み飛ばして構いません。でも、天気予報や渋滞予測を「なんとなく」使っていた方ほど「そうだったのか」となる話です。
予測は、当たる・外れるではなく確率で語られる
桜の開花予想や渋滞予測は、「必ずこうなる」という断言ではなく、過去のデータをもとにした「もっとも起こりやすいシナリオ」を示しています。サイコロのシミュレーションで、試行回数を増やすほど理論上の確率に近づいていったように、これらの予測モデルも、集められるデータが多く、精緻であるほど、実際の結果に近づいていきます。
モデルは、作って終わりではなく、更新され続けている
渋滞予測や天気予報のモデルは、一度作ったら完成ではありません。実際の結果とモデルの予測がどれだけズレたかを検証し、モデルを少しずつ調整していく、という改善のサイクルが続いています。これはまさに、このレッスンで扱った「トライ&エラー」そのものです。身近な予測サービスの裏側でも、地道な改善が積み重ねられています。
教室のひとこま
最後に、このテーマを教えるとき、教室でよく交わされるやりとりを。
講師モデル化とシミュレーションは、抽象的な話になりがちなテーマです。私は必ず「業務マニュアルもモデル化なんです」という一言を挟むようにしています。自分の仕事に引きつけて考えられた瞬間に、受講者の表情が変わります。