ネットコミュニケーションの特徴
Net Communication記録性 ― ネットのやり取りには足跡が残る
対面での会話は、録音や録画をしない限り記録が残りません。しかし、メールの送受信やインターネットの閲覧履歴といった通信でのやり取りは、常に記録が残ってしまうという性質があります。これを記録性(情報のやり取りが自動的に記録・蓄積される、ネットコミュニケーションの特徴)と呼びます。
通信でのやり取りは、記録・蓄積・検索・複製・伝達のすべてが可能になります。匿名で書き込んだ内容であっても、それが犯罪に関わるようなものであれば、開示請求を通じて投稿者の身元や場所が特定されることがあります。どのWebページを、何時何分に閲覧していたかまで記録として残るのが、ネットコミュニケーションの特徴です。
職場のパソコンからインターネットに接続する場合、通信は会社のサーバーを必ず経由します。つまり、どの社員がどのWebページを見ているかは、会社側から見て把握できる状態にあるということです。勤務中のパソコンで私的な買い物をするのは避けたほうがよい、といわれるのはこのためです。
アクセス記録の活用 ― 検索と広告の関係
インターネットでキーワード検索をすると、その内容に関連した広告が表示されることがあります。これは、利用者の行動履歴(アクセス記録)を活用したマーケティング手法です。検索したキーワードや閲覧したページの情報をもとに、「この人は何に関心がありそうか」を推測し、それに合った広告を表示する仕組みです。
たとえば「ランニングシューズ」と検索すると、スポーツ用品の広告が表示される、といった具合です。目的は、関心の高い人に必要そうな情報を効率よく届けることにあります。広告を出す側は無駄な広告表示を減らせ、利用者側も自分に関係のある情報を見つけやすくなるというメリットがあります。
一方で、行動履歴という個人情報を扱う以上、どの情報をどこまで使うのかを利用者に説明し同意を得ることや、プライバシーへの配慮が欠かせません。アクセス記録の活用は、便利さと引き換えに、情報の扱い方について考える必要がある技術でもあります。
Cookieのしくみ ― ログイン状態やカートを覚えている正体
アクセス記録の活用を実現している技術のひとつが、Cookie(クッキー。Webサイトが訪問者のブラウザに保存する、小さなデータファイル)です。
訪問者がWebサイトを訪れると、そのサイトから「この情報をブラウザに保存してください」という指示が送られてきます。ブラウザはその指示にしたがって、自分の中にデータを保存します。このデータがCookieです。ログインの途中でページを閉じても、あとで戻ってきたときにログイン状態が保たれていたり、ショッピングサイトのカートに商品が入ったままになっていたりするのは、このCookieの働きによるものです。
二つのタイプのCookie ― ファーストパーティとサードパーティ
Cookieには大きく分けて二つのタイプがあります。
ファーストパーティCookieは、訪問者が直接アクセスしたサイト自身が書き込むCookieです。たとえば運動靴のショップのサイトを訪れたとき、そのショップ自身が「このユーザーは運動靴を見ていた」という情報を書き込みます。このCookieはそのサイト内でのみ機能し、ログイン情報の保持やカート内容の保存など、サイト内での利便性を高めるために使われます。
サードパーティCookieは、訪問者が訪れたサイトとは別の外部企業が書き込むCookieです。Webサイトに埋め込まれた広告タグ(広告を表示するために、広告会社が用意する仕組み)を通じて書き込まれ、複数のサイトをまたいで訪問者の行動を追跡できる点が特徴です。次のような流れで機能します。
- ユーザーがサイトA(たとえばホテルの公式サイト)にアクセスする。
- サイトAには、広告会社の広告タグが埋め込まれている。
- この広告タグが動作すると、広告会社のドメインからCookieが発行される。
- ユーザーはサイトAを見ているだけだが、Cookieを書き込んでいるのは広告会社である。これがサードパーティCookie。
- 広告会社は「このブラウザはホテルサイトを訪問した」という情報を記録する。
- 後日、ユーザーが別のサイトB(ニュースサイトなど)を訪問する。
- サイトBにも、同じ広告会社の広告タグが埋め込まれている。
- 広告会社は自分のCookieを読み取り、「この人はホテルサイトを見た人だ」と判断する。
- その結果、サイトB上にホテルの広告が表示される。
このように、他のサイトで見た商品の広告があとから追いかけてくるように表示される仕組みをリターゲティング広告(一度関心を示した商品・サービスの広告を、別のサイトでも表示し続ける手法)と呼びます。他社が集めた行動履歴をもとに最適な広告を出すという点では、いずれも共通しています。
ただし、近年はこの仕組みそのものが見直されつつあります。SafariやFirefoxはサードパーティCookieを原則としてブロックしており、Chromeも段階的な廃止を進めています。現在は、Privacy Sandboxと呼ばれる代替技術などへの移行が進んでいる段階です。
Cookieは利用者にとって便利な仕組みです。自分に関心のある情報や商品の広告を見られ、一度入力した情報を何度も入力する手間も省けます。その一方で、自分の行動がどこかで記録され、広告配信に使われているという側面もあります。特にサードパーティCookieは複数のサイトをまたいで行動を追跡するため、「知らない間に行動が監視されているのではないか」というプライバシー上の懸念が指摘されてきました。こうした事情から、日本でも改正電気通信事業法により、サードパーティCookieを使う場合には事前にユーザーへ通知し、同意を得ることが義務付けられています。Cookieは、「便利さ」と「プライバシー保護」のバランスを取りながら、使い方が問われ続けている技術だといえます。
匿名性と実名性 ― 匿名でも身元は特定されうる
インターネットへの書き込みは、実名で行う場合と匿名で行う場合があります。ここで注意しておきたいのは、匿名で投稿したとしても、投稿内容によっては身元が特定されてしまうリスクがあるという点です。文章のクセや、投稿内容に含まれる位置情報・時間帯などの手がかりから、身元が推測されることがあります。前の項目で見た記録性のとおり、犯罪性のある投稿であれば、開示請求によって投稿者が特定される場合もあります。
匿名だからといって、他者への誹謗中傷が許されるわけではありません。画面の向こうにいるのは、実名のときと同じように、感情を持った一人の人間だということを忘れないようにしましょう。
フェイクニュース ― 何が怖いのか
インターネット上には、事実に基づかないフェイクニュース(虚偽の情報でありながら、真実であるかのように発信されるニュース)が数多く流通しています。何が怖いかというと、感情を強く揺さぶる内容ほど拡散されやすいという構造があることです。特定の政治家や政権を強く批判するような内容は、その真偽にかかわらず「バズり」やすく、多くの人の目に触れることになります。
さらに厄介なのは、そうした発信のすべてが人間の手によって作られているとは限らない点です。近年は、AI(人工知能)を使って作られた動画や画像が、実在する出来事のように見せかけて拡散されるケースも出てきています。誰が、何の目的で発信しているのか分からない情報に、安易に飛びつかないことが大切です。
ここまで、ネットコミュニケーションが持つ「記録性」という性質を見てきました。ここからは、その記録性が「拡散」とどう関わっているのかを、もう一歩踏み込んで考えてみます。
感情を動かすコンテンツほど拡散されやすい
SNSの表示順を決める仕組みの多くは、「いいね」やコメント、シェアといった反応が多い投稿を優先的に表示する設計になっています。反応を集めやすいのは、冷静で正確な情報よりも、怒りや驚きといった強い感情を呼び起こす情報です。特定の政治家や政権への批判は、この「感情を動かす」条件に当てはまりやすく、内容の真偽とは無関係に広まりやすいという構造があります。
発信者を疑う視点を持つ
感情に訴える発信の中には、発信者の素性がはっきりしないものや、AIによって自動生成されたコンテンツが含まれていることがあります。発信者が誰なのか分からない情報ほど、事実確認をせずに拡散してしまう危険性が高くなります。
記録性は、事実確認にも使える
記録性は、拡散のリスクである一方、事実確認の武器にもなります。投稿がいつ、どこから発信されたものかをたどれるのは、記録性という性質があるからです。フェイクニュースに接したときは、拡散する前に、まず発信元をたどってみる習慣をつけましょう。
教室のひとこま
最後に、このテーマを教えるとき、教室でよく交わされるやりとりを。
講師
講師研修でCookieの話をすると、「ログインしたままになっているのが便利で当たり前だと思っていた」という声をよく聞きます。当たり前に見える便利さほど、裏側の仕組みを知る価値があると感じています。