タッチタイピングの練習方法
Touch Typingタッチタイピングとは ― 目標は速さではない
タッチタイピングとは、手元を見ないでキーボードを打つことです。昔は「ブラインドタッチ」とも呼ばれました。ソリティアがマウスの授業なら、こちらはキーボードの授業。私の講座の、最初の2本柱のもう1本です。
誤解されがちですが、タッチタイピングの目標は速く打つことではありません。本当の目標は、視線の往復をなくすことです。手元を見ながら打つ人は、キーボードと画面のあいだで視線が行ったり来たりします。この往復が、打ち間違いに気づくのを遅らせ、肩と首を疲れさせ、考えごとを中断させる。手元を見ないだけで、画面だけを見て考え続けられるようになります。速さは、その結果として後からついてくるものです。
FとJの突起 ― ホームポジション
キーボードの「F」と「J」のキーを、指先でそっと触ってみてください。小さな出っ張りがあるのが分かりますか。この突起は、世界中のほぼすべてのキーボードについています。何のためか。手元を見ずに、指の定位置を見つけるためです。
左手の人差し指をF、右手の人差し指をJに置き、残りの指を隣のキーに自然に並べます。左手は小指から A・S・D・F、右手は J・K・L・+(の並び)に。親指は2本ともスペースキーの上。これがホームポジション(home position = 指の家)です。どのキーを打っても、打ち終わったら必ずこの家に帰ってくる。タッチタイピングの技術は、つまるところこれだけです。
突起の意味を知ると、キーボードが少し違って見えてきませんか。あの小さな出っ張りは、「見ないで打てるように設計されていますよ」という、キーボードからの招待状なのです。
練習のしかた ― 正確さが先、速さは後
練習のルールは3つです。
- 手元を見ない。間違えてもいいから、見ない。見そうになったら、ハンカチを手の甲にかぶせてしまうのも手です。
- 正確さを優先する。ゆっくりでいい、正しい指で正しいキーを。間違った指づかいで速くなると、あとで直すのが倍たいへんです。
- 毎日10分。週1回の1時間より、毎日の10分。指の記憶は、睡眠をはさんで定着していきます。
そして、心の準備をひとつ。練習を始めると、最初の1〜2週間は、いままでより遅くなります。見て打てば打てるのに、見ないルールにしたせいで、ミスが増えてイライラする。ここでやめる人が一番多い。でもこの谷は、全員が通る谷です。谷の向こうで、ある日ふっと、指が勝手に動く瞬間が来ます。そこから先は、もう一生ものです。
練習には、ゲーム感覚で遊べる無料のタイピングゲームを使うのがおすすめです。当サイトにも練習用に作ったゲームがあります——ぷるぷるホットケーキ・タイピング。打つたびにホットケーキがぷるぷる震えて、単語を打ち切るとケーキが積み上がっていきます。まずは「初級(3文字まで)」を選んでください。短い言葉だけが出てくるので、手元を見ない練習にちょうどいい長さです。慣れてきたら中級、上級へ。
練習していると、誰もが一度は思います。「そもそも、なんでこんな並び方なんだ?」と。
QWERTY配列 ― 150年前の遺産
いまのキー配列は、左上の並びからQWERTY(クワーティ)配列と呼ばれます。生まれたのは1870年代、コンピュータではなくタイプライターの時代です。当時のタイプライターは、速く打ちすぎると印字用のアーム同士が絡まって故障しました。そこで、よく続けて打つ文字を離して配置し、絡まりにくくした——という説が有名です(諸説あります)。つまり私たちは、150年前の機械の都合で決まった並びを、いまも使い続けているのです。
もっと速い配列も、あるにはある
実は、もっと効率的に設計された配列(Dvorak配列など)も存在します。それでもQWERTYが揺るがないのは、世界中の人がもう体で覚えてしまったから。技術の世界では、最良のものより、みんなが使っているものが勝つ——という好例として、教科書にもよく登場します。
FとJの突起にも、名前がある
本文で紹介したFとJの出っ張りは、ホームポジションマークなどと呼ばれています。パソコンを何十年使っていても、この突起に気づいていない人は珍しくありません。今日、誰かに教えたくなったら、ぜひどうぞ。「FとJ、触ってみて」から始まる小さな講座を。
教室のひとこま
このテーマを教えるとき、教室で毎回のように起きるやりとりを。
講師タイピングの授業でいちばん多い相談は、技術ではなく「いまさら直せるのか」という不安です。自己流で何十年、という方ほど深刻に悩んでいます。だから最初に伝えるのは打ち方ではなく、「遅くなる谷は全員が通る。谷の長さは2週間」という見通しです。ゴールまでの地図があれば、人は谷を歩けます。