トレード・オフの関係

2015年と2016年に、ロンドンの地下鉄・ホルボーン駅で社会実験が行われました。それは「エスカレーターの片側を空けずに、両側に人が立って利用する」という試みです。
日本でも「急ぐ人のために右(または左)側を空けて立つ」ことが、ディファクトスタンダード(事実上の標準ルール)になっていますよね。
東京メトロ半蔵門線の永田町駅がまさにそうなのですが、長蛇の列に並べば止まって有楽町線または南北線の乗り換え口に移動することができますが、歩く列に入ってしまうと、あの長いエスカレーターを止まらずに上らなければいけません。
特に通勤ラッシュ時は、左側に乗るための長蛇の列は、2車両分の長さになることもあります。あれが結構つらい。この実験を初めて知ったとき、「エスカレーター問題は日本だけの話じゃなかったんだ」と気づきました。
この実験では、乗客に2列で立つよう促した結果、30%の混雑緩和が確認されました。
しかし一方で、「急いでいる人にとっては不便」「列に従わない人とのトラブル」など、別の問題も生まれました。実験中には、激しい利用者同士の喧嘩も起きたそうです。
効率と個人の自由、安全とスピード。そこにはまさに、一方のメリットを享受すれば、もう一方にデメリットが発生するという、典型的なトレードオフの構造が見て取れます。
この問題、実は統計学を指導する自分にとって、非常に興味深い実験でした。
というのも、現実のビジネスや制度設計において、「明確な正解がない中で、判断を迫られる」場面が非常に多いからです。特にデータを用いた意思決定では、それが顕著です。
判断を迫られる場面に「正解」はあるか?
このように「一方を立てれば、一方が立たない」状況において、私たちはどのように判断すればよいのでしょう?
社会制度や公共マナーに限らず、ビジネスの現場や意思決定においても頻繁に起こります。とくにデータを使って判断しようとするとき、それが如実に表れます。
でも、判断は求められる
統計分析では、「p < 0.05」のような 有意水準(ゆういすいじゅん) というものを使います。難しい内容はさておいて、ざっくり言えば「その分析結果に、統計的な根拠があるかどうか」を、このp値(ピーバリュー)を使って判断します。
しかし、現実のデータではp値で白黒つけられないことのほうが圧倒的に多いのです。
- サンプル数が少ない
- ノイズが多い
- 効果が微小すぎる
これらの理由があり、求められたp値で「統計的に説得力のある結果ではない」という答えが導かれたとしても、それで終わることはできません。
分析を始めた時点で、プロジェクトには多くのステークホルダーが関わっています。会議は開かれ、結果が報告され、意思決定が求められます。
つまり、「数字がはっきりしないから、判断は保留で」とは、簡単に言えないのです。
グレーゾーンに最適解を
このように、判断をしなければならない問題は、統計学の学習者だけでなく、現場で意思決定をするすべての人に関わるテーマだと思います。
もちろん、この問題に対する共通の答えはないと思うのですが、問題を解いていくコツはつかめるのではと考えています。
- 短期的な影響を考える
- 長期的な影響を考える
- 個人・組織・国家レベルでの影響を階層別に考える
- 直接的な影響なのかを考える
- 間接的な影響なのかを考える
- 最悪の結果(ミニマックス)」は何かを考える
- ナッシュ均衡(誰も得しないけど、それ以上どうしようもない状態)かどうか?
- パレート最適(誰かの損失なしに他の人を得させられない状態)かどうか?
今日のブログは、帰りの新幹線の中で考えた思い付きブログですが、いつかこのグレーゾーンを真剣に考える講座を作成したいと考えました。

新幹線も、
- リクライニング問題
- 551の豚まん問題
- ビールや日本酒などのアルコールの匂い問題
- 荷棚の荷物問題
- おしゃべりの自由問題
などありますよね。
統計学が「最適解」を導くだけでなく、「納得解」を育てるための道具にもなることを意識しないとなと考えました。
補足
ちなみに、私は新幹線でお酒を静かに飲み、食事を楽しむ派ですが、オンライン・ミーティングをしている人、パソコンのキーボード音だけはどうしても苦手です。
皆さんはいかがでしょう? 笑