医療費と介護費
Medical and Long-term Care窓口3割の裏側 ― 払っていない7割はどこへ行ったのか
家計・企業・政府・銀行の役割で、病院の窓口で払うのは医療費の一部だけだという話に触れました。ここでは、その「一部」の中身を具体的に見ていきます。
日本の公的医療保険では、窓口で払う自己負担は原則3割です(年齢や所得によって割合は変わります)。1万円分の診療を受けても、窓口で払うのは3,000円程度で済むのは、このためです。
では、残りの7割はどこから出ているのでしょうか。答えは、私たちが給料から天引きされている保険料と、税金を財源とする公費(国や地方が税金などでまかなうお金)です。社会保障全体で見ると、財源のおよそ6割が保険料、およそ4割が公費でまかなわれています(厚生労働省)。医療給付費は2024年度で42.8兆円にのぼります(厚生労働省・財務省資料)。窓口で見えているのは、この42.8兆円のごく一部にすぎません。
つまり、私たちが病院に払う3割は、医療費という氷山の一角です。残りの7割は、普段は目に見えないところで、社会全体が支え合っている部分なのです。
年齢とともに増える医療・介護 ― 費用は均等にかからない
医療費と介護費には、大きな特徴があります。年齢が上がるほど、1人あたりにかかる費用が増えていく傾向がある、という点です。若く健康なうちは通院の機会も少なく、費用もそれほどかかりません。しかし、年齢を重ねるにつれて、慢性的な病気の治療や、日常生活の介助が必要になる場面が増えていきます。
日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は現在およそ29.4%にのぼります(内閣府「高齢社会白書」2025年10月時点)。人口に占める高齢者の割合が高まるほど、社会全体で見た医療費・介護費の総額も大きくなりやすい、という構造がここにあります。誰を「支え手」とし誰を「受け手」とするかという人口構成の変化については、現役世代と高齢者で詳しく見ています。
年齢とともに費用が増えるのは、誰にでも起こりうる自然な変化です。だからこそ、若いうちから保険料を払い、必要になったときに給付を受け取るという社会保険の仕組みが、医療・介護の分野でも中心的な役割を果たしています。
介護保険の仕組み ― 40歳から払い、必要になったら使う
医療とならんで大きな柱になっているのが介護保険(介護が必要になったときに、費用の一部負担でサービスを利用できる公的保険制度)です。介護保険料は、40歳になった月から支払いが始まります。まだ介護が必要になる年齢ではない人にも、40歳という節目から保険料の負担が求められます。
サービスを利用するには、市区町村の窓口で要介護認定(どの程度の介護が必要かを、市区町村が公的に判定する仕組み)を受ける必要があります。認定を受けた人は、訪問介護やデイサービス、施設への入所といったサービスを、費用の一部を自己負担するかたちで利用できます。
医療保険が「病気やけがになったとき」に備える仕組みだとすれば、介護保険は「年齢を重ねて日常生活に手助けが必要になったとき」に備える仕組みです。どちらも、加入者みんなで保険料を出し合い、必要になった人がその給付を受け取るという、社会保険の考え方の上に成り立っています。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
3割負担でも、大きな手術や長期入院は重い負担になる
窓口負担が3割とはいえ、大きな手術や長期の入院になれば、それでも家計にとって重い金額になりえます。そこで用意されているのが高額療養費制度(医療費の自己負担額に、収入に応じた1か月あたりの上限を設ける公的な仕組み)です。
この制度では、1か月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた分について、あとから払い戻しを受けられます。上限額は年齢や所得によって異なりますが、「窓口で3割払う」というルールの上に、さらに「それでも重くなりすぎないようにする」という安全網が重ねられているわけです。介護保険にも、これと似た考え方で自己負担に上限を設ける仕組みが用意されています。
医療費・介護費の話を聞くと、負担ばかりが目につきがちです。しかし、実際には「3割で済む」「上限を超えたら戻ってくる」という、複数の仕組みが重なり合って、私たちの生活を支えています。
「医療費の窓口負担をゼロにすべきだ」という主張には、どんな良い点と、どんな問題点があるでしょうか?
ヒント: 窓口で払わなかった分は、結局どこかで誰かが負担しています。それが誰かを考えてみましょう。
自分や親の介護が必要になったとき、誰が何を払うか、話したことはありますか?
ヒント: 介護保険で足りる部分と、足りない部分(食費・住居費など)を分けて考えてみましょう。