日本の年金はこれからどうなるのか
Future of Pensionsここまで、社会保障の全体像、年金の仕組み、支え手と受け手のバランス、医療・介護費、そして給付費138兆円という規模を見てきました。最後に、多くの人が一度は気になったことのある問いに向き合います。「日本の年金は、これからどうなるのか」という問いです。この問いは、しばしば「破綻するか、しないか」という二択で語られます。しかし、そこに一次資料をあてはめてみると、二択では収まらない姿が見えてきます。
「年金は破綻する」は本当か
年金制度には、健康診断にあたる仕組みがあります。財政検証(年金制度が長期的に維持できるかどうかを、複数の経済前提のもとで国が5年に1度点検する作業)です。直近では2024年に行われました。
この検証では、賃金や物価の伸びなどについて複数の経済前提を置き、それぞれのケースで将来の給付水準を試算します。2024年の財政検証では、標準的な経済前提であれば、モデル年金の所得代替率(現役世代の平均的な手取り収入に対して、年金の受給額がどのくらいの割合になるかを示す指標)は、将来にわたって50%程度を確保できる見通しとされました。ただし、この結果は前提とする経済状況によって幅があり、経済成長が想定より弱ければ、より厳しい試算も同時に示されています。
つまり、「破綻する」と言い切れる根拠も、「絶対に大丈夫」と言い切れる根拠も、この一次資料の中には見当たりません。制度が完全に無くなるという意味での「破綻」は、標準的な前提のもとでは想定されていない、というのが財政検証から読み取れる姿です。
ただし「同じ水準」ではない
制度が続くことと、受け取れる金額が今と同じ水準であることは、別の話です。年金制度の基本で見たとおり、日本の年金は賦課方式(現役世代が納めた保険料を、その時々の高齢者への給付にあてる仕組み)で運営されています。現役世代と高齢者で見たように、支え手の数は今後も減っていく見通しです。
この構造の中で給付の水準を長期にわたって保つため、マクロ経済スライド(現役世代の減少や平均寿命の伸びに応じて、年金額の伸びを物価や賃金の伸びよりゆるやかに調整する仕組み)という制度が組み込まれています。名前を覚える必要はありませんが、要点はひとつです。年金額は、物価や賃金がそのまま反映されるのではなく、長期的にゆるやかに調整される方向にある、ということです。
「もらえなくなる」わけではないけれど、「今と全く同じ水準がそのまま続く」とも言い切れない。財政検証が示しているのは、そういう中間の姿です。
制度と自分の備えの二本立て
制度がゆるやかに調整されるとすれば、考え方はおのずと二本立てになります。ひとつは制度そのものを見守ること。もうひとつは制度に上乗せする、自分なりの備えを持つことです。
備え方には、長く働いて厚生年金に加入する期間を延ばす、企業年金やiDeCoなどの私的年金制度を利用する、資産形成に取り組むといった選択肢があります。日本人の金融資産2,000兆円超とは何かで見た、家計の現預金比率が下がり続けている「貯蓄から投資へ」という流れの背景には、こうした将来への備えの意識もあると考えられます。
どの選択肢を、どの程度組み合わせるべきかは、収入・年齢・家族構成によって大きく異なります。この講座では、個別の金融商品を推奨したり、特定の備え方を勧めたりすることはしません。ここで持ち帰ってほしいのは、「制度は制度として理解した上で、自分の備えは自分で考える」という二本立ての姿勢そのものです。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
一次資料は、厚生労働省のサイトで公開されている
財政検証の結果は、厚生労働省が報告書として公表しています。ニュースやSNSで見かける「年金は破綻する」「年金は安心だ」といった主張は、多くの場合、この一次資料のどこか一部を切り取って強調したものです。
悲観的な見出しも、楽観的な見出しも、まずは元の資料の該当ページを開いてみると、どの経済前提のもとでの話なのか、どこまでが試算でどこからが解説者の意見なのかを、自分の目で確かめることができます。この講座がここまで大切にしてきた「数字の出どころを確かめる」という姿勢は、年金というテーマでもそのまま使えます。
「もらえなくなる」ことと「水準が下がる」こと。この2つの違いは、自分の人生設計にどう効いてくるでしょうか?
ヒント: 何歳まで働くか、どんな備えを持つかという選択肢を、それぞれの場合で考えてみましょう。
「ねんきん定期便」を最後に見たのはいつでしょうか?次に届いたら、何を確かめますか?
ヒント: これまで納めた保険料の記録や、将来受け取れる見込み額が記載されています。