初心者が陥るキーボードトラブル
Keyboard Trouble事件1: テンキーの数字が打てない
キーボードの右側にある、電卓のように数字が並んだ四角い一角――テンキーを押しているのに、画面には数字が出ず、代わりにカーソルだけがすっと動く。教室で最初によく起きる「事件」がこれです。壊れたと思って手を止めてしまう方がほとんどですが、犯人はいつも同じです。
犯人はNumLockキーです。実はテンキーには二つの顔があります。数字を打つための「数字モード」と、上下左右にカーソルを動かすための「矢印モード」です。同じキーの塊が、状況に応じて別人に変身する。NumLockは、この二人のうちどちらを表に出すかを決める切り替えスイッチにすぎません。テンキーの上、あるいはキーボードのどこかにあるランプ(ノートパソコンの場合は画面の隅に一瞬表示される通知)が点いていれば「数字モード」、消えていれば「矢印モード」です。
直し方は拍子抜けするほど簡単です。NumLockを1回押すだけ。それだけで、矢印だったキーの束が、また数字に戻ります。
事件2: ノートで文字を打ったら数字が出る
今度は逆の事件です。ノートパソコンで文章を打っていたら、「U」を押したはずが「4」、「I」を押したら「5」。文字が数字に化けてしまう。テンキーのないノートパソコンで、時どき起こるトラブルです。
ノートパソコンには、独立したテンキーを置くスペースがありません。そこでメーカーは一計を案じ、キーボードの一部(多くは右側の文字キー群)に「もう一つの顔」を持たせています。ふだんは文字を打つキーですが、あるスイッチが入ると、その一角がまるごとテンキーに変身するのです。この変身を起こすのが、機種によってNumLock単独、またはFn+NumLockです。
ここでFnキーの正体も紹介しておきます。ノートパソコン特有のこのキーは、「一つのキーに二つの仕事をさせる」ための切り替え役です。音量を上げ下げするキー、画面の明るさを変えるキーも、多くは文字キーとの兼業で、Fnを押しながら使う設計になっています。スペースの限られたノートパソコンならではの、キー不足を解消する工夫です。
直し方は機種によって分かれます。NumLockキー単独で戻る機種もあれば、Fn+NumLockの同時押しが必要な機種もあります。まずはNumLockを単独で1回押してみて、変わらなければFnを足してみる。この順番で試せば、たいてい元に戻ります。
事件3: 小文字のつもりが大文字になる
「aiueo」と打ったつもりが、画面には「AIUEO」。三つ目の事件は、これです。とりわけ厄介なのは、パスワードを入力しているときにこれが起きる場合です。指の動きは間違っていないのに、大文字と小文字が食い違っているせいで「パスワードが合っているはずなのに、通らない」という状況に陥ります。実はこれこそ、この手のトラブルでいちばん多い原因です。
犯人はCapsLockです。このキーが入ると、Shiftを押していなくても、アルファベットがずっと大文字のまま打ち続けられる状態になります。
直し方は、Shift+CapsLockです。ここで一つ注意があります。日本語配列のキーボードでは、CapsLockだけを単独でもう一度押しても解除されません。Shiftを押しながらでないと外れない仕組みになっているのです。これを知らずにCapsLockを何度も押し直し、直らないと困ってしまう方を何人も見てきました。
三つの事件に共通する教訓は、一つです。キーボードの様子がおかしくなったら、壊れたのではなくどれかの「ロック」が掛かっただけなのです。まずはNumLockとCapsLockのランプ(またはノート画面の通知)を見る。それだけで、たいていの謎は解けます。
なお、キーボードのトラブルにはもう一つ有名なものがあります。「あ」と入力したいのに「A」になってしまう、日本語入力そのものが効かない――というものです。これはロックキーではなく、日本語入力の切り替え(半角/全角の切り替え)というまったく別の仕組みが原因なので、そちらのレッスンで扱います。
ここからは、基礎の一歩先の話です。初心者の方は読み飛ばして構いません。でも、パソコン歴の長い方ほど「そんな理由だったのか」となる話です。
CapsLockはタイプライター時代の遺産
CapsLockという名前そのものが、種明かしになっています。パソコンより前、機械式のタイプライターの時代、Shiftキーは今のように軽い電子スイッチではなく、活字を載せた重い金属の台を物理的に持ち上げる、力のいるキーでした。大文字を何文字も打ち続けたいとき、その台を押し上げたまま指で支え続けるのは大変です。そこで、台を持ち上げた状態のまま機械的に固定してしまう「ロック」の仕組みが生まれました。それが Caps(大文字)Lock(固定)です。指の力はもう要らず、機械が代わりに支えてくれる。今のキーボードにも、その名残がキーボード左端の一等地に、今日もどっしりと居座っています。
NumLockは、矢印キーが無かった時代の名残
NumLockの由来も似ています。パソコンの黎明期、キーボードに独立した矢印キーがまだ用意されていない時代がありました。それでもカーソルを動かす手段は必要です。そこでテンキーに、数字を打つ役目と、カーソルを動かす役目の二役を兼任させました。数字と矢印、どちらの顔を出すかを決める切り替えスイッチとして生まれたのがNumLockです。今では多くのキーボードに独立した矢印キーがありますが、テンキーの二役はそのまま残り続けています。
キーボードという道具には、こうして数十年前の事情が、化石のようにあちこちに残っています。ふだん何気なく押しているキーの一つひとつに、実は昔の技術者たちの都合が刻まれている。そう思ってキーボードを眺めると、少し愛おしく見えてくるかもしれません。
教室のひとこま
最後に、このテーマを教えるとき、教室で毎回のように交わされるやりとりを。
講師
講師テンキーが矢印に変わってしまった受講者の方に「NumLockを1回押してみてください」とお伝えすると、拍子抜けしたような、ほっとしたような、複雑な表情をされることがよくあります。「こんな簡単なことだったんですね」という言葉を、このレッスンでは一番多く聞いている気がします。
CapsLockの解除方法は、教室で必ず伝える豆知識のひとつです。単独で押し直しても外れないと知らずに、何度もキーを叩いてしまう方を数えきれないほど見てきました。「Shiftを押しながら」という一言を添えるだけで、みなさんの手が止まります。小さな仕組みですが、知っているかどうかで、パソコンへの苦手意識は大きく変わるのだと感じています。