言語バーと日本語入力の切り替え

IME

右下の「あ」と「A」

画面右下、時計の少し左あたりに、小さな1文字が表示されているのに気づいていますか。「」だったり「A」だったりする、あの文字です。むかしは言語バーと呼ばれる帯状の道具として画面上に大きく表示されていましたが、いまはタスクバーの右端に小さく収まっていて、その名残があの1文字です。

意味はシンプルです。「あ」と表示されているときはひらがな入力モード、「A」と表示されているときは英数入力モード。パソコンには「いま、どっちの文字を打つつもりか」を切り替えるスイッチがあって、あの1文字はそのスイッチが今どちらを向いているかを示す表示なのです。

これは、車のギアによく似ています。車には前進と後退を切り替えるレバーがあり、運転する前に必ず「いまDに入っているか、Rに入っているか」を確認しますよね。それを見ずにアクセルを踏むと、思わぬ方向に動いて事故になります。パソコンの文字入力も同じで、右下の表示を見ずに打ち始めると、思っていたのと違う文字が出てくる「事故」が起こります。

切り替えは「半角/全角」キー

「あ」と「A」の切り替え方は、とても簡単です。キーボードの左上、数字の「1」のさらに左にある半角/全角キーを1回押すだけ。押すたびに「あ⇔A」が入れ替わります。

大事なのは、押し方よりも習慣のほうです。文章を打ち始める前に、まず右下をちらっと見る。この一手間を癖にしておくと、これから話す「事故」のほとんどを未然に防げます。車に乗り込んだら、まずギアを確認するのと同じことです。

「打ったらローマ字のままだった!」事故

初心者の方が最初につまずくのが、まさにこの切り替えのトラブルです。ひらがなのつもりでキーボードを叩いたのに、画面には「konnnichiha」のようなローマ字がそのまま並んでしまう。これは、モードが「A」(英数)になっているのに気づかず、ひらがなのつもりで打ってしまったときに起こります。

こうなったら、慌てないことが肝心です。BackSpaceで打った文字を全部消してから、半角/全角キーを押して「あ」に切り替え、それから打ち直せば大丈夫です。消さずに続けて打とうとすると、余計に混乱してしまいます。

逆のパターンもあります。英単語やメールアドレスを打ちたいだけなのに、モードが「あ」のままなので、打つたびに変換候補の一覧が画面に出てきて邪魔になる。そんなときはEscキーを押せば、その変換をキャンセルできます。焦って何度も同じキーを叩く前に、まず「あ」か「A」かを確認する。それだけで、たいていの入力トラブルは解決します。

もっと深く ― IMEという通訳ソフトDEEP DIVE

ここからは、基礎の一歩先の話です。初心者の方は読み飛ばして構いません。でも、パソコン歴の長い方ほど「そうだったのか」となる話です。

「あ/A」の正体は、IMEの顔

英語のキーボードは、キーを押せばそのままアルファベットが1文字出て終わりです。ところが日本語は、ローマ字を打ってひらがなにし、そこからさらに漢字に変換する、という何段階もの「変換」が必要な言語です。この変換をまるごと引き受けている通訳ソフトのことをIME(Input Method Editor)と呼びます。右下の「あ/A」は、その通訳がいま働いているかどうかを示す、IMEの顔なのです。ローマ字から、ひらがなへ、さらに漢字へと文字を変換していく「かな漢字変換」という仕組みは、日本語をコンピュータで扱うために生み出された、日本のコンピュータ史に残る発明のひとつでもあります。

「半角/全角」という名前の由来

ところで、なぜあのキーは「半角/全角」という名前なのでしょうか。全角とは、原稿用紙のマス目1つ分にぴったり収まる文字の幅のこと。漢字やひらがなは、もともとこの全角の幅で作られています。半角はその半分の幅で、アルファベットや数字はこちらの幅が基本です。つまりあのキーは「あ/A」を切り替えるキーであると同時に、文字の「幅」を切り替えるキーでもあり、その幅の呼び名がそのままキーの名前になっているわけです。

この全角と半角の見分けが、思わぬところで重要になる場面があります。フォルダの名前づけで登場する、全角のアンダースコア「_」と半角のアンダースコア「_」の見分けです。詳しくは フォルダの名前の付け方 のページで紹介している事故を見てみてください。

教室のひとこま

最後に、このテーマを教えるとき、教室で毎回のように交わされるやりとりを。

受講者
日本語を打とうとしたのに、画面に「aiueo」ってそのまま出てきちゃいました……。壊れたんでしょうか。
講師講師
壊れていませんよ、大丈夫です。画面右下を見てください。「A」になっているときは英数モードなんです。半角/全角キーを1回押して「あ」にしてから、もう一度打ってみましょう。
受講者
なるほど……。この右下の表示、今まで気にしたこともなかったです。
講師講師
車のギアと同じで、踏む前に見る癖をつけるだけで、この手のつまずきはほとんどなくなります。打ち始める前に、まず右下をちらっと見る。それだけ覚えて帰ってください。
講師メモ ― 現場から

教室で最も多い質問のひとつが、この「ローマ字のまま打ってしまった」というものです。慌てて何度も同じキーを叩き直そうとする方が多いのですが、まずは深呼吸してもらい、「消す→右下を見る→切り替える→打ち直す」の順番を一緒にゆっくりなぞってもらうと、次からは自分で直せるようになります。

逆に、変換候補がずらずら出てきて焦ってしまう方には、「Escで消せますよ」とだけお伝えしています。ボタンひとつで“なかったこと”にできると分かると、みなさん急に入力に対する肩の力が抜けるようです。

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