雇用と人手不足
Employment and Labor Shortage雇用の現在地 ― 失業率2.5%が意味すること
「人手不足」という言葉を、求人チラシやニュースで見ない日はありません。その一方で、日本の完全失業率(働く意思のある人のうち、仕事に就けていない人の割合)は2.5%と低い水準にあり、働いている人の数である就業者数はおよそ6,860万人にのぼります。数字だけを見れば、雇用はむしろ安定しているように見えます。
失業率という数字が具体的に何を数えているかは、失業率で詳しく扱いました。ここで押さえておきたいのは、「失業率が低い=仕事を探している人がほとんどいない」ということです。
では、失業率が低いのに、なぜこれほど「人が足りない」という声が強いのでしょうか。この一見矛盾したような状況の裏側を、次の節で見ていきます。
人手不足の正体 ― 景気ではなく、構造の問題
人手不足と聞くと、「景気が良くて仕事が増えたから」というイメージを持つかもしれません。もちろんその面もありますが、今の日本で起きている人手不足の土台にあるのは、もっと根の深い変化です。働き手の中心となる生産年齢人口(15歳から64歳までの、働き手の中心となる年齢層の人口)そのものが、年々減り続けているのです。減り方の実際の数字は生産年齢人口と働き手で確かめられます。
景気による人手不足であれば、景気が落ち着けば緩和されます。しかし、働き手の総数そのものが減っているという構造的な要因は、好景気・不景気に関わらず続きます。求人を出しても応募が来ない、という状態が全国のあちこちで同時多発的に起きているのは、この構造の問題が背景にあるからです。
つまり今の人手不足は、「景気が良いから」という一時的な理由だけでなく、「働ける人の数そのものが減っている」という、簡単には元に戻らない理由の両方が重なって起きています。
現場で起きていること ― 短縮、省人化、賃上げ競争
人手不足は、統計上の数字にとどまらず、身の回りの現場にも具体的な形で表れています。深夜営業をやめる飲食店やコンビニ、24時間対応から時間を区切った対応に切り替える店舗が増えているのは、その一例です。
もう1つの動きが、省人化投資(人手をかけずに業務を回せるよう、機械やシステムに投資すること)です。セルフレジや配膳ロボット、注文用のタブレット端末は、限られた人数で店を回すための工夫といえます。
そして3つ目が、企業どうしの賃上げ競争です。人を確保するために、他社より高い時給や初任給を提示する動きが広がっています。この賃金が決まっていく仕組みそのものについては、賃金はどうやって決まるのかで扱いました。営業時間の短縮・省人化・賃上げは、どれも「限られた働き手をどう確保し、どう業務を回すか」という同じ問題への、企業側の異なる答えです。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
人件費は、企業にとって「費用」でもある
人を確保するために賃金を上げると、それは働く人にとっては嬉しいことですが、企業にとっては人件費という費用の増加でもあります。費用が増えた企業は、その分を商品やサービスの価格に上乗せしようとすることがあります。
こうして、人手不足→賃上げ→人件費の上昇→価格への転嫁、という流れが生まれることがあります。値段が上がる理由を「原材料が高くなったから」という面から見たのがなぜ物価は上がるのかでしたが、人手不足による人件費の上昇も、費用側から物価を押し上げる要因の1つです。
人手不足は、単に「困った現象」ではなく、賃金と物価という、この講座で繰り返し登場する2つの数字を動かす、経済全体につながる出来事なのです。
人手不足で消えたサービス、逆に生まれたサービスを、身の回りで探してみましょう。
ヒント: 深夜営業をやめた店、セルフレジや配膳ロボットが増えた店など、最近の変化を思い出してみましょう。
「人が足りない」ことと「その賃金では人が来ない」ことは、何が違うのでしょうか?
ヒント: 求人を出しても人が集まらないとき、原因が働き手の絶対数なのか、提示している条件なのかを分けて考えてみましょう。