わからないことの質問方法
How to Ask「パソコンが動かないんです」では、伝わらない
詳しい人に助けてほしいとき、あるいはサポート窓口に電話をかけるとき、多くの方がまずこう言います。「パソコンが動かないんです」。「なんか変になっちゃって」。気持ちはとてもよく分かります。でも残念ながら、これだけでは相手には何も伝わりません。
たとえて言えば、お医者さんに「なんか具合が悪いんです」とだけ言って、症状も、いつからか も、何を食べたかも話さないまま「治してください」とお願いするようなものです。お医者さんは特殊能力を持っているわけではありません。どこが・いつから・何をしたらという手がかりがあってはじめて、診察が始まります。パソコンの相談もまったく同じで、手がかりがなければ、どんなに詳しい人でも診断のしようがないのです。
ここで、はっきりお伝えしておきたいことがあります。質問が下手なのではありません。何を伝えれば相手が助けやすいかを、誰も教えてくれなかっただけです。学校でも会社でも、パソコンの操作は教わっても、パソコンについて人に相談するときの言い方までは、なかなか教わりません。この章では、その「伝え方」だけを扱います。覚えることはたった3つです。
伝える3点セット ― 目的・操作・結果
相手に伝えるべきことは、実はたった3つしかありません。この3つを、起きた順番のまま並べて話すだけで、質問の質は別物になります。
- 何をしようとしていたか(目的)。「印刷しようとして」「メールを送ろうとして」など、あなたが最終的にやりたかったことです。
- 何をしたか(操作)。「印刷ボタンを押したら」「送信をクリックしたら」など、実際にクリックした・押したことです。
- 何が起きたか(結果)。画面に何か文字が出たなら、そのまま読み上げる、あるいは書き写します。自分の言葉で要約せず、画面に書かれている通りに伝えるのがコツです。
たとえば「印刷しようとして、印刷ボタンを押したら、『プリンターがオフラインです』と出ました」。この一文だけで、相手はもう半分診断を終えています。プリンターの電源が入っているか、パソコンとつながっているか——確認すべき候補がその場で絞り込めるからです。目的・操作・結果、この順番を守るだけで、詳しい人はぐっと助けやすくなります。
最強の添え状はスクリーンショット
「結果」の部分、とくにエラーメッセージは、書き写すより撮るほうが確実です。専門用語や英単語が混ざった文言は、一字一句正確に書き写すのが実は大変で、写し間違いも起きやすいからです。画面キャプチャの撮り方で覚えたあの技を、実戦で使うときが来た、というわけです。
メールで質問を送るときは、目的・操作・結果を文章で書いたうえで、エラー画面のスクリーンショットを添付します。百の言葉より、1枚の画像のほうがずっと正確に、そしてずっと速く相手に伝わります。撮る前には、ひとつだけ思い出してください。画面には撮るつもりのなかったものまで、そのまま写り込みます。人に送る前に、写ってはいけないものが写っていないか、ひと呼吸おいて確認する癖をつけておくと安心です。
聞くタイミング ― 15分ルール
もうひとつ、意外と誰も教えてくれないのが「いつ聞くか」です。私がおすすめしているのは15分ルール。何か困ったら、まず自分で15分だけ調べてみます。はじめてのWeb検索で覚えた検索窓に、出てきたエラーの文言をそのまま打ち込んでみるのです。同じ言葉でつまずいた人が、世界のどこかに必ずいます。
15分たっても解決しなければ、そこで人に聞きます。丸投げで「分かりません、助けてください」と抱えたまま持っていくのでもなく、かといって何時間も一人で抱え込み続けるのでもない。ちょうどよい境目が15分です。聞くときに「ここまで自分で調べてみました」の一言を添えられれば、相手はゼロからではなく、あなたが試した続きから助けることができます。
ちなみに、この目的・操作・結果という3点セットは、相手が人ではなくAIになったときにも、ほとんどそのまま通用します。その話は「AIに聞く時代の質問術」で、もう少し踏み込んで扱います。
ここからは、基礎の一歩先の話です。初心者の方は読み飛ばして構いません。でも、パソコン歴の長い方ほど「そうだったのか」となる話です。
サポート窓口が最初に聞くこと
プロのサポート窓口に問い合わせると、症状を伝えたあとに、決まって聞かれる質問があります。「もう一度同じことをすると、同じ問題が起きますか?」。これは意地悪でも形式的な確認でもありません。再現手順——同じ操作をすればもう一度同じ問題を起こせる、その手順のことです——が分かるかどうかで、対応できる範囲がまったく変わってくるからです。
毎回起きる問題と、一度きりの問題
毎回同じ操作で同じ問題が起きるなら、サポートの担当者は自分の手元でも同じ操作をたどり、原因を突き止められます。ところが「なぜか一度だけ起きて、二度と起きない」という問題は、実は誰にも追いかけようがありません。たとえるなら、いつも同じ角を曲がると転ぶ道と、たった一度だけ、理由も分からず転んだ道の違いです。前者は道を直せますが、後者は直しようがないのです。
本レッスンの3点セットの正体
ここで種明かしです。「何をしようとして・何をしたら・何が起きたか」——このレッスンで覚えた3点セットは、実はそのまま再現手順の書き方そのものでした。目的と操作を伝えるということは、相手が同じ手順をなぞれるようにする、ということです。うまく質問できる人は、知らないうちに再現手順を語っているのです。
教室のひとこま
最後に、このテーマを教えるとき、教室で毎回のように交わされるやりとりを。
講師
講師2012年から質問を受け続けてきて感じるのは、「聞き方が下手な人」はほとんどいない、ということです。ただ、目的・操作・結果を順番に話す型を知らないだけで、型さえ渡せば、次の相談からは見違えるように伝わる質問をしてくれます。私はこの3点セットを教えるとき、必ず「印刷しようとして、印刷ボタンを押したら、『プリンターがオフラインです』と出ました」という同じ例文を使うようにしています。型は1つ覚えれば、あとは中身を入れ替えるだけで応用が利くからです。
もうひとつ。エラー文言を書き写してもらうと、驚くほど高い確率でどこかが変わってしまいます。「オフライン」が「オンライン」になっていたり、数字が1つ抜けていたり。悪気はまったくなく、誰にでも起きることです。だからこそ「書き写さなくていいんです、撮ってください」と伝えると、教室の空気がふっと軽くなるのを、毎回感じます。